「産」の代表として、東京支部長、(株)日立製作所ディスプレイグループ  グループ長&CEO 丸山 紘一氏のご講演

講演テーマ:「環境配慮の現状と将来動向」(循環型環境社会に向けたディスプレイ産業の取組み)


  (株)日立製作所ディスプレイグループ グループ長&CEO 丸山 紘一氏

 
 T.環境問題への産業界の係わり合い

 地球環境問題では、オゾン層破壊(2085年にまでに半減)、地球温暖化(炭酸ガスが増加して、21世紀末までに海水面65cm上昇)、海洋汚染、砂漠化、途上国の公害問題、有害廃棄物越境移動、野生生物種の絶滅、熱帯居雨林の減少、酸性雨、等が最近議論されている。 社会形態を、使い捨て社会(20世紀)から環境を配慮した循環型社会(21世紀)に変換しなければならない。物質的豊かさと利便性を追求すると地球環境の悪化、生態系への悪影響を及ぼす。これを対処するために、法規制の整備(循環型基本法)して、循環型社会の形成(地球環境の保全)に変換しなければならない。 循環型社会の実現のために、生産、流通・販売,家庭、回収、素材の流れを、環境負荷低減、最適消費・最小廃棄、再資源化の方向に構築しなければならない。 物を作る産業部門はエネルギー消費が年が変わっても一定である。しかし、運輸・貨物部門、民生・業務部門(ディスプレイ含む)、民生・家庭部門(ディスプレイ含む)、運輸・旅客部門は年が経るごとにエネルギー消費が増大する。我々は世界レベルの先端産業ばかりでなく、環境面で世界の産業界をリードするにならねばならない。

 U.ディスプレイ産業における環境配慮

 (1)液晶産業における環境配慮の動向

 (社)電子情報技術産業協会(JEITA)の中に電子デバイス部会があって、その中に液晶産業研究会があって活動している。目的は、内外の業界・団体への対応と相互協力、業界の諸問題への対処、液晶産業の健全な成長と発展、である。液晶産業研究会に環境安全プロジェクトがある。 液晶産業に関連する環境法体系としては、液晶生産企業(作る工場)として、安全衛生・防災規制がある。また、近隣・地域社会(生産国)としては、廃掃法、リサイクル法があり、それらは強化される方向にある。グローバル社会(消費国)として、地球温暖化防止規制、省エネルギー規制、PFC等排出規制がある。 ディスプレイの出荷比率推移(国内) を見るとブラウン管からノート型への切り換えが進んで90%が液晶になっている。全CRTの場合(仮定)から液晶切り換え(実態)にすると、日本の話で原子力発電所1基に相当(出力110万kW)を少なくできる。 液晶ディスプレイの軽量化が資源保護に貢献している。14型形TFTパネルの例で1997年重量が600グラムが、バックライトの軽量化、ガラスを薄くする、ことにより重量が400グラムに削減した。さらに、反射型バックライト無し等で重量が200グラムに削減する予定である。 製造時のエネルギー消費については、製造時の水使用と電力エネルギー消費がある。今はブラウン管並であり(比率1.0)、半減の計画である。 製造時のPFC等温暖化ガスの問題は半導体と同じ様にかかえている。液晶工場のCO2換算排出量内訳で、工場総電力よりPFC等排出の方が多い。半導体は対策が進んでいる。半導体は総量で10%以上削減する自主目標を立てている。液晶は若い産業で源単位で新ライン70%削減を目標にたてている。 リサイクルついては、発生抑制 (Reduce)として、歩留まり向上、再使用 (Reuse) として、ガラス、液晶材料の再使用、再生利用(Recycle) として、代替材料、グラスファイバーへの利用がある。 透明導電膜用インジウムの使用量が多いが、推定埋蔵量は少ない。そのためインジウム回収技術を開発している。工程からのインジウム回収、防着シートの付着ITO(Indium Tin Oxide)からの回収、廃棄パネルからのインジウム回収である。

 (2)企業の環境配慮(日立ディスプレイグループの例)

 環境活動として、環境に配慮した製品づくり、生産活動をしている。環境管理として、I SO14000などの行動計画をたて、パフォーマンス自己管理をしている。 スローガン「美しい地球を次世代へ」を環境方針にしていて、環境保全活動の重点施策としては下記を掲げている。 地球温暖化防止     ・省エネルギー推進 ・CO2原単位削減 ゼロエミション推進     ・廃棄物分別回収 ・再資源化の促進 水資源保護と俳出水質維持、管理 環境影響化学物質の削減、管理 製品の環境配慮設計 オゾン層保護     ・特定フロン使用設備更新と代替化 製造時のエネルギー削減では、大型基板の採用等で高効率生産システムを実現して、エネルギー効率80%、CO2削減効果22%を得ている。更に、ゼロエミッション化のためセメント原料へ再資源化等により、廃棄を0%にしようとしている。 レジスト剥離液のリサイクルについては、TFTホトリソ工程のレジスト剥離液を蒸留再生装置で、その場でリサイクルしている。回収率80%である。 製品の消費電力は、14型TFTパネルで消費電力5Wに低減してきた。さらに4Wにしたい。 環境適合製品制度の導入・拡大のため、環境適合設計を推進している。設計段階で環境適合設計アセスメント実施する。アセスメント評価カテゴリで評価したり環境適合製品を登録している。製品段階で環境情報表示、環境マーク表示して、環境データシートを提供している。 情報公開とコミュニケーションのため、環境報告書を出して広報にしている。 環境パフォーマンス自己評価として、43項目を評価した。1999年度で17%向上した。目標は2001年に21%向上することである。

 V.ディスプレイ産業の将来動向

 液晶ディスプレイの歴史を振り返ってみると、1980年代にXYマトリックス駆動により、1000億円市場に、1990年代にアクティブマトリックス駆動により、1兆円市場に、2000年代にランダムマトリックス駆動により、8兆円市場になった。将来は、2010年で、消費電力で1/100(多層反射型など)、製品重量で1/10、エネルギーで1/10が環境上の狙いである。システムディスプレイ、SOPとシステムLSI融合による最適化、ギャップフリー液晶材料、プラスチック等で実現すると思われる。 産管学共同プロジェクトとして液晶先端技術センターの設立がある。 産業界6社、経済産業省、大学と一緒に、TFTプロセス基盤技術とシステムディスプレイを開発する。 更に、日本のディスプレイ産業の持続的発展のためには、システムディスプレイのような将来の高機能・省エネルギー型のデバイス実現に向けた、産管学の戦略的で且つ強力な支援体制が必要である。 大学は、引き続いて先端的な基礎テーマ(次世代液晶表示モード、シート液晶など)にチャレンジし、また、学位取得者に対する研究キャリア制度と優遇制度の整備などが,求められると思う。

 まとめ。

 1.液晶ディスプレイは、ITを支えるキーデバイスであり、製品の省力化や製造時の省エネルギーなどに最先端の環境配慮を推進中である。

 2.日本の液晶産業の更なる発展のためには、将来の環境配慮を見据えた産学官による戦略的な先端技術が重要である。

 3.日本の液晶産業は、今後共、温室効果ガス削減などの世界共通の問題に対してイニシアチブをとり、地球環境に貢献する。