課題克服のためのアプローチ

 

 

本研究室では、社会の将来ビジョンを見据えて課題を克服していていくため、広範に及ぶ工学研究を基礎研究(新たな知見を見つけてその上に積み上げるボトムアップ)と応用研究(目標達成のため既存の知識を総動員するトップダウン)のアプローチ法を駆使しながら、効率的に遂行しています。具体的には、個々の研究テーマに応じて手法を使い分け、双方の相互作用(刺激)を促します。これにより、現状技術の改良・応用に基づく短期の開発研究から、未来の基盤技術の提案を目指した長期の基礎研究まで、シームレスに研究を推進・展開できます。もちろん、本研究室で提案する技術群を構築していく上で、フィージビリティスタディ(実現可能性チェック)も欠かせません。本研究室における課題設定とアプローチ法は、以下の通りです。

 

 

     ソフトマターによる情報メディアの開拓

 

フラットパネルディスプレイをはじめとする表示技術は、これまで材料科学・情報科学・人間科学の境界分野を開拓することで発展してきました。特に昨今、高度なヒューマンインタフェースを目指して、材料工学と感性工学を融合した取り組みが求められています。そうした先進的な表示技術を創出することにより、今後の情報化社会やライフスタイルが変革されていく可能性があります。ハードウェアと人間の境界領域は未解明・未開拓な部分が多く、研究者にとっても多くの可能性を見いだせるため、挑戦的でやりがいがある魅力的な分野と言えます。

視覚工学をベースとした電子ディスプレイは、情報コンテンツのメディア(媒体)技術です。そのためディスプレイの評価は、絵を出してナンボのものと言われます。そのようなこともあり、ハードは目立たずその存在感は小さい方が好ましく、ユーザーの負担が少なくなる方向に発展してきました。実際に近年、重くてかさばるブラウン管の箱型から、フラットパネルディスプレイの平板状へと変貌しました。さらに将来、平板状から薄いフィルム状へと進化すると考えられています。そのようなフレキシブルディスプレイは、次世代の情報化社会の扉を開く可能性があります。

 

 

フレキシブルエレクトロニクスと情報メディアの共創

 

そこで本研究室では、今後の情報メディアサービスを先導するフレキシブルエレクトロニクスを実現するため、液晶・高分子・有機半導体・ジェルをはじめ柔軟な有機材料であるソフトマター*1と、その分子配向技術の開拓*2を進め、革新的な光・電子機能を探求します。一般に炭素の分子骨格からなる有機材料では、軽量、柔軟、衝撃耐性、優れた加工性などの機械的特質を持つだけでなく、構成する原子の種類、分子構造、分子間相互作用を制御・設計できます。さらには、分子間の結合力の異方性による自己組織化が示す特異性も活用します。これらをベースとして、有機材料では様々な光・電気物性を得ることができます。そのため有機材料を用いれば、高度な制御性・適応性により、ヒューマンインタフェースに求められる多様性と自由度を獲得できます。

その一方、昨今、人間科学は脳計測技術の進歩により大きく進展しています。人間の脳の認知システムは柔軟性・適応性が高いとされていますが、感性や認知の機構についてはまだまだ未解明な部分が多いとされます。そのため、自由度が大きい有機材料工学と、未知の部分が多い最先端の認知科学を突き合わせれば、人の感性に優しく寄り添う情報メディアのハードウェアやサービスを創出できる可能性があります。有機材料のヒューマンインタフェース応用は、今後のフレキシブルエレクトロニクスを牽引する原動力になります。例えばフレキシブルディスプレイは、高齢化社会が進展する中で携帯が容易で画面が大きて見やすいため、人や感性に優しい技術となります。災害時の情報ライフラインの確保にも威力を発揮します。さらに柔らかい電子機器は、人やその生活環境に寄り添うことができるため、ヘルスケア分野での中核技術になることでしょう。

 

*1 無機材料に比べて柔らかい有機物質の総称。

液晶、有機半導体、色素、高分子、複合膜、ジェル、

コロイド、単分子膜など、最先端材料が含まれる

*2 分子の形状・剛直性・凝集力・表面効果などを活用    

 

     液晶ディスプレイのフレキシブル化

 

身近に使われている液晶ディスプレイは自ら発光せず、バックライトの光源部と液晶パネルの光変調部が分離して、それぞれの機能を独立して性能追求できるため、トータルで高いパフォーマンスが得られます(理想的なエネルギーと情報の完全分離)。ハードウェアが嵩張る反面、システム設計の自由度が極めて高いという特質があり、透過型、反射型、投写型をはじめあらゆる表示分野に進出して、電子ディスプレイの用途で主要な地位を築くに至っています。

 

フレキシブル液晶ディスプレイの基本構造

 

本研究室では、液晶ディスプレイをフレキシブルディスプレイに進化させるため、液体の液晶層をプラスチックフィルムで挟んだフレキシブル液晶デバイスをメインテーマとして、研究・開発を進めています。2枚のプラスチック基板を用いるフレキシブル液晶ディスプレイは、基板が1枚のフレキシブル有機ELディスプレイに比べて柔軟性に劣りますが、既存の作製技術・設備が転用可能なため、大画面化・高精細化・低コスト化を早期に実現できる可能性があります。

 

 

液晶ディスプレイの進化モデル

 

 

 

液晶デバイスに用いる基板の変遷

〜基板を柔らかい素材として薄くすることで柔軟構造化が進行中〜

(左からガラス板、薄板ガラス、プラスチックシート、極薄フィルム)

 

またフレキシブル液晶は、材料劣化に基づく焼き付きや寿命を心配する必要がなく、表示動作の安定性に優れるという特徴があります。さらに、フレキシブル液晶に用いるプラスチック導光板バックライトについても、最近の薄型化の進展により、実質的にフレキシブル化が実現されています。

こうしたしなやかな材料・デバイスと制御性の高い光・電気特性を活用して、情報化社会に有用な次世代ディスプレイや適応光学デバイスを創出し、人の感性に優しく寄り添う画像デバイス技術を構築していきます。

 

液晶滴下

1

ネマチック液晶

プラスチックフィルム基板

 

モノマー粉末

紫外線硬化モノマー

有機半導体材料

 

本研究室で扱う機能性有機材料

 

 

 

 

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研究室で試作したフレキシブル液晶デバイス

 

 

 

 

IMAG0021のコピー

 

フレキシブルディスプレイの将来イメージ

 

 

     次世代エレクトロニクスを先導する製造基盤技術

 

将来的にフレキシブルディスプレイの作製法としては、既存の真空成膜工程でなく、低温の印刷・塗布工程が望ましいと考えています。印刷工程を活用できれば、プラスチック基板を巻き取りながら連続的に加工・処理できるロール・ツー・ロール製法が可能になります。これにより、量産性(低コスト化)、省資源化、環境負荷の低減に有用な革新的製造技術が、表示技術から先駆けて発信されることになります。ディスプレイ研究者にとって夢の技術です。

フレキシブルディスプレイの部材・製造分野は、まだ基礎段階ではありますが、エレクトロニクス全体に大きなインパクトを与える次世代技術のため、積極的に開拓していく必要があります。

 

 

 

ロール・ツー・ロール工程を用いた

フレキシブルディスプレイの作製イメージ