具体的な育成施策

 

工学を学ぶ学生には、論理的思考をベースに、ものごとの仕組みを理解して、生み出す能力が求められます。本研究室では、研究者もしくはエンジニアとしての基礎・基盤を構築して、学術界(アカデミア)や産業界(インダストリ)で活躍できる人材の養成を目指します。また専門技術の習得のみならず、創造力の養成など長期的な人材育成の観点も考慮して学生指導に努めます。その際、研究のモチベーションを高めるため、研究の楽しさとともに厳しさも知ってもらうことが大切と考えています。難問に挑戦することの意義と達成感を実際に体感して欲しいと思います。

 

研究は環境より、本人のやる気が大切

 

研究開発を担う人材育成には、充実した研究環境に加えて、教員による適切な指導と学生本人の自覚が不可欠です。また教育の成果が把握しにくくフィードバックをかけにくいため、なおさら指導指針の明確化が重要です。本研究室が掲げる具体目標は、以下の通りです。専門性の深耕、視野の拡大、創造力の養成を基本として、表現力、意思疎通力、論理的思考力、モチベーションの高揚法、自己完結力(責任感)なども、個性や習熟度に応じて高めていって欲しいと思います。

 

川内キャンパス

川内キャンパス

社会に役立つ幅広い知識を獲得する全学教育の中枢

       

(1)専門性の深耕

研究活動の基本は知識を深掘りすることで、その能力を養うことが重要です。学部の講義・実習等で培ってきた基礎学問(電磁気学、光学、電気回路学、電子工学、有機化学など)のエッセンスを土台として、ブレークスルーや分岐点となった先行論文の輪講や論文読みをこなします。そこでは、膨大な知識体系が蓄積されていることを知り、人知に地平線はなく、その先にも必ず先があることを理解します。同時に、物質科学や人間科学の奥深さに驚くことでしょう。学びと知識量は、経済学でいうフローとストックの関係にあります。日々の学び(フロー)による知識の蓄積と熟成が不可欠で、一夜漬けや付け焼き刃は役立ちません。地道に学び取った知恵や考え方は、研究活動をドライブするだけなく、個人の価値感・人生観にも影響を及ぼします。

このように獲得した専門分野の基礎知識を使って、個別の研究テーマに沿って計画→実験・計算→評価・考察→課題整理のサイクル(PDCA)を回して、専門性を高めていきます。与えられた課題に対して自主的に解決策を探りますので、一種の問題解決学習(Problem Based Learning)と言えます。専門知識を活用しながら、「仮に〜であれば」の思考実験を行うことも、ものごとを深く考える能力を身に付ける上で欠かせません。学生自身に新たな知識を謙虚に受け入れる心構えができていれば、どんどん知識や考え方を吸収していきます。

研究室ゼミや学会では、高度な技術内容を効率的に議論するため、専門的な用語や概念を多用します。専門用語に対してリテラシーを養成しますが、その場合であっても原理・原則などの本質・核心を理解するように促します(なぜなぜ解析、フォルトツリー解析)。直接的に見えない事象であっても、頭の中に物理的イメージが描けるようになると、理解が深まっていきます。このようにして現象・事象を根源的な物理的意味(フィジカルミーニング)まで遡って、理解しようとする姿勢を身に付けて欲しいと思います。

研究には外形的(マクロ)の見方も重要ですが、認識しにくい細部(ミクロ)の観点からの理解・発想も欠かせません。若い時は森を遠くから見ていても、何も始まりません。自分の足で森に分け入って、木の枝・葉・根をミクロに観察することから研究を始めます(神は細部に宿る?)。このような取り組みにより、研究という価値観・世界観を培い、たとえどんなに狭い分野であってもまだ誰も立ち入っていない技術領域(奥義)を見つけることを目指します。1つの専門性を確保すると、自ずと軸足が定まってきます。中堅になるとマクロな見方(大局観や俯瞰)も重要ですが、若い時期は専門性を深めることでアンカーや楔を作り、それらを足場・支柱としてフラフラと揺るがずぶれない方が、良い結果に繋がることが多いようです(青い鳥症候群は克服)。

新進気鋭の第一線の研究者が集う学術講演会の場で、独自の研究成果を発表して質疑応答できるようになることが、最初の目標です。学部4年生を卒業するまでに専門分野の学会で、口頭発表のデビューを目指します。予稿集の原稿提出や口頭発表のぎりぎりまで学生が教員とともに考え抜き、その先に見いだした知見こそオリジナリティに秀でたアイデアになります。外部発表という晴れ舞台(Its show time)は、学生に強い緊張を強いることになりますが、その分だけ大きな自信に繋がることは言うまでもありません。

 

多枝

ケヤキの大樹(青葉山キャンパス)

枝をいっぱいに伸ばして、多くの知識(光)を吸収

       

(2)視野の拡大

専門性を高めることが縦に掘る教育なら、視野の拡大は横幅を拡げる教育です。双方は、研究をダイナミックに展開して開発を遂行する上で、車の両輪となります。双方がポジティブなフィードバックとして働くため、大きなシナジー効果が期待でき、研究者・エンジニアの資質としても欠かせません。そのためここでは、研究課題に関わる深い専門知識を習得するだけでなく、隣接する学際領域にも及ぶ視野の養成を目指します(実際に新しい研究の多くは学際分野から生まれます)。研究対象とする事象は、思いもよらない複合効果が働いた結果として表に出てくることが多く(バタフライ効果)、隠れたメカニズムをつまびらかにするために多様な知識と柔軟な理解力が必要です。

学生には、まず身の回りの現象に対して素朴な疑問を持ち、自分なりに理解するように指導しています。「なぜだろう」という旺盛な好奇心が生まれれば、自ずと他分野にも首を突っ込むことになり、新しい概念を理解する契機になります。その結果、考え方の自由度(引き出し)が増えますので、課題克服に向けて様々な観点から手段を講じることができるようになります。また多角的な見方ができ、縦・横・斜めはもとより逆転の発想もできます。そのため、着想も豊かでユニークになります。例えば、ある材料が環境パラメータに対して極めて不安定であれば、それを逆手にとって高感度センサーに使えるという発想も生まれます。視野の拡大は、研究中のセレンディピティ(期待せぬ発見)を見逃さない思考法の獲得にも繋がります。研究で最も重要視される創造の過程は、分野間の境界・融合領域(学際)で生まれやすいと言われる所以です。一見離れた2つの分野が近いと感じられれば、視野が拡がったと言えるでしょう。

視野がある程度拡がってくると、目の前で生じる現象を高い視点から、客観的かつ冷静に俯瞰できるようになります。様々な現象はもとより自分の立ち位置まで客観的に見えるようになれば、俯瞰力が身に付きつつあると言えるでしょう。大所高所の視点は、科学者・エンジニアにとって不可欠な素養です。

また、視野を広くしながら専門性を高めることで、頭の中で課題・手段が融合して自然と整理されるため、グッドアイデアが頭に浮かんだり、天の声が聞こえたりすることがあります。学術論文を構成する上でも、当該分野を中心として一定の視野が必要です。未解明現象の起源を探るため、どれだけ現象を冷静かつ多角的に分析したかが問われます。さらに論文の表現では、根拠付きで論理的な説明が求められるため、研究者に俯瞰的・客観的な視座が養成されます。難解な現象も、多様な切り口で多面的に切り出す(もしくは投影する)ことで、表層で隠れた深部の真実・本質に到達できます。そうした探求プロセスで得られる真理こそ、科学技術の礎石にする価値があります。

このように専門分野を掘り下げるだけでなく隣接・関連分野の理解を深めることにより、おおよそ修士1年までに国際学会での英語発表を目指します。そして、修士2年を終えるまでにオリジナルなジャーナル論文を執筆・投稿することを目標としています。

 

電気1号館近景

 電子情報システム・応物系1号館

電気・通信・電子・情報・医工学分野の教育拠点

 

(3)創造力の養成

創造性は、研究者にとって欠かせない能力です。一般に創造は、ベースが何もないころから生まれることは少なく、深い専門性からの独自の考察や、異分野の融合や類推(アナロジー)がトリガーになることもあります。新しい学術研究は、分野の境界など学際で生じることが多い所以です。新規性・独創性を訴求した優れた論文は、そのような学際領域から多く生まれます。そのため創造力を養成するには、様々な事象や知見を知る機会を増やして、深く理解する能力を養うことが必要となります。先入観や固定観念(レッテル)から抜け出せないステレオタイプに陥らず、発想・想像の翼を柔軟に広げて、いかに新しいモノ・コトを創造できるかで、研究教育の真価が決まります。

日々の研究活動では、結論を急ぐことよりも導出過程や新規性に目を向けることにより、事象を深く考える習慣が身に付きます。分からないことを後回しにせず、できるだけ調べて腹に落とすようにします。これにより、研究者としての好奇心・探求心を涵養します。好奇心はアクティブラーニングの発端になるため、さらに深い知識を自主的に探求する契機になります。さらには、そこから得られた知識を活用して、想像の翼を思いっきり拡げられるとよいと思います。研究の世界でも、本当に大切なもの(核心)は多くのデータに埋もれて、すぐには見えてこないことが多いと思います。発想力を駆使した創造的研究の始まりです。

難しい課題に直面した場合には、抜本的で斬新なアイデアを重視して、克服に向けて何が必要か、その障害は何かなど、できるだけ具体化していきます。それにより、原理的に本当にできないのか、どの程度ならできるのか、より大きな達成度は得られないのかなど、克服策・最善策・次善策を繰り出すことが可能になります。真の創造は、本来孤独で不安な作業ですが、他の研究者ともコミュニケーションをとり、本質や相違点を確認しながら、課題を突破して突き抜ける方法を身に付けていきます。新規性・有効性を訴求する学会発表や論文執筆を何度も繰り返すうちに、それらの能力がブラッシュアップされていきます。

例えば博士課程であれば、後期課程1年目までに当該分野のイノベーションとなる新たな課題を見いだして、残りの年度で克服手段を創出して実践します。それらに関わる論文の発表を通して、社会に新しい価値を提供することを目指します。社会生活の向上や学術の発展に貢献できるように、重要な課題を自ら見いだして克服策を提案できるようになるとよいと思います。そのため高度な専門性を確保するだけでなく、社会に役立つ新しい技術や価値観を創出するための能力を培います。博士学位を取得する時には、基礎・応用分野に関わらず1つの研究領域を創出して、(小さい領域かも知れませんが)その領域では誰に負けないくらいの気概と実力を持って欲しいと考えています。

 

ブタナ

ブタナ(青葉山キャンパス)

ものごとは名より中味を重視すること

       

(4)表現力の鍛錬

相手から理解や共感を得るテクニックは、研究者はもとよりエンジニアにとっても、不可欠なスキルとなってきています。企業においても、事業・企画の提案や報告など、プレゼンや書類作成の機会はますます増えています。本研究室では、学会やゼミにおいて積極的に発表の機会を設けることで、提案・報告・アピールのためのプレゼン能力を養成しています。そこでは、論理構成、資料作成法、口頭表現、ショートプレゼン力、文章術などが、トレーニングの対象となります。

口頭のプレゼンで重要なことは、主張する内容を十分に理解してもらうだけでなく、優れたアイデアや豊富な知識で感銘・感動を与えることです。それには、伝えるべき内容を論理的かつ的確に表現する必要があります。最初に目的や理由を明確にした後、取るべきアクションを説明すると、理解度や共感度が上がります。また相手の専門分野や関心分野でなくとも、相手にも関わる大きなことから、話を始めることも忘れてなりません(いわゆる“つかみ”)。場合によっては相手の理解度を鑑みて、補足説明を話題展開に邪魔にならない程度に挟みます。映画・ドラマで言うと説明台詞ということになりますが、意思疎通や理解促進のための下準備を怠ってはいけません。それらを踏まえて、相手の理解度に応じた適切な用語・表現の探索に力を尽くして、現状・課題・目的・手段・結果・特徴・今後の展開を伝えていきます。何が何でも分かってもらおうとする誠意と平場のスタンスが重要です。これにより聞き手は、特殊で難解な内容であっても理解して消化できるようになります。技術者でない一般の聞き手に対して、技術内容を特殊な専門用語を用いず噛み砕いて平易な自分の言葉で表現できるようになれば(ブレークダウン)、説明側の専門性も一定のレベルに達したと見なせます。そう、合格点です

また、学会講演会などの短時間の口頭発表の時にあれもこれもと多くの論点を盛り込むと、聴講者は混乱して消化不良を生じます。聞き手が専門外であったり、個人の情報容量と理解力には限界があったりすると、聞き手に応じて説明の深度を浅く定めることもやむを得ません。そのため自分にとって最も重要で主張すべき結論を1点(もしくは2点)に絞り込んだ上で、それを裏付けるもしくは補強する内容を慎重に付け加えていく構成法を推奨しています。また、話し手が説明しにくい内容や流れのところは、聞き手にとっては数倍理解しにくいところを肝に命じるべきです。

また、英語・日本語に限らず学術論文の執筆では、トピックセンテンス(見出しのようにキーとなる文章)や論理的階層を活用したパラグラフライティングをはじめ、説得力が高く他の研究者が理解しやすい表現方法を駆使します。これらのブラッシュアップでは、教員などの他者による評価・査読が効果的です。その場合、チェック側も例示を多用しながら、本人が誤りを気づいて自覚しやすい伝え方を探ります(コーチング)。

 

カンコウバイ実

 ウメ(青葉山キャンパス)

みずみずしい個人の感性を大切に

 

(5)コミュニケーション力の向上

昨今、様々なヒューマンスキルが求められる中で、そのコアとなるコミュニケーションの基本は、多様性(ダイバーシティ)の受容と相互理解・共感の獲得と言えます。普段の生活はもとより自分の研究を発展させる上でも、周囲とは意思疎通が欠かせません。例えば、1つのアイデアや技術を磨く場合、他の人から示唆が得られることが多く、一人の発想で周辺分野を含めて技術を構築できて自己完結することは希です。ゼミでの発表トレーニングでは、他の意見を抑え込むディベートでなく、内容を本質的に深めるディスカッションを優先して、個々のアイデアを洗練・先鋭化することに努めます。また、他の意見に敬意を払いながら質疑を行って、主張のエッセンスを抽出・把握する能力を養います。質疑応答でも、互いの意見の肯定(共通)部分から議論に入ると、核心に向けて意思疎通がスムーズに進みます。さらに相互に知識を補って理解を深める方法も有用です(アクティブラーニング)。そうした議論の取り組みにより、考え方や立場の違いを寛容する精神も養われるため、相互理解に基づく調整力のスキルアップも期待できます。

また、コミュニケーション力は研究着手のフェーズでも役立ちます。まったく未着手の課題を探索する、もしくは極めて困難な問題の解決策を探る場合、自由な発想で幅広い意見を出し合うブレインストーミングから始めます。このような芽出しの議論では、個別のアイデアの完成度は問わず、可能性をすべて拾い上げます。その後、各意見のエッセンスを集約した後、結論を端的な言葉で表現することに努めます。議論の結果をまとめる際には、様々な意見のプラス面だけを際立させるポジティブシンキングの手法も有効です。ときおり、論点を整理するラップアップや冷却時間も必要です。これらのディスカッションに関わる鍛錬を通して、グループワークやコラボレーションで不可欠なコミュニケーション力や調整力を身に付けて、ヒューマンスキルを高めていきます。

さらに、議論の結果を踏まえて率先して動き出す行動力が身に付けば、誰も見ていない最初の景色を見ることができ、何物にも代え難い経験・知識が得られます。このような調整と行動の能力は、将来、組織間にまたがるフレームワークやプロジェクトマネージングで欠かせないリーダーシップの確保に繋がっていきます。

 

アカツメクサ

 アカツメクサ(青葉山キャンパス)

雑草に揉まれながらたくましく成長

 

(6)グローバル化の対応

昨今、様々な情報・技術が国際化(グローバル化)しており、研究者やエンジニアにとっても英語などの外国語能力の向上が求められています。英語は海外研究者と意思疎通を行うための不可欠なツールです。専門的な研究を推進・展開する上でも、英語での論文読解・執筆や国際会議発表は欠かせません。一方、英語自体はあくまでも情報媒体(手段)であり、技術現場での意思疎通を意味あるものにするには、まずは伝えるべき情報コンテンツを磨くことが重要です(限られた技術分野であれば、英語の専門用語に尾ひれを付けただけでも意思は通じる?)。それにより相手方に敬意が生まれて、信頼関係も獲得しやすくなります。

意思疎通の肝は、英語であっても相互理解であり、日本語の場合と変わるものではありません。専門分野や出身地などのアイデンティティをベースに自らの考えや立場を表現できる能力が必要です。さらには、いかに相手の共感を得ながら、相互作用を高めるかが次の段階のテクニックです。そのため、考え方の違いにも慣れ親しみ、先方の立場も踏まえて対応することも必要です(忖度?)。英会話の能力をヒューマンスキルの一環として考えるべき時代になっていると思います。

また論文・発表などの用字については、できるだけ単語本来の意味を使って、シンプルに表現するとよいと思います。本来の意味から派生した用例の少ない意味ばかりで単語で文章を綴っていくと、少しでもイレギュラー要素(送り手側の表現ミス、受け手側の知識不足など)が入ると、たちまち意味不明や誤解という事態に陥ってしまいます。できるだけ的確な単語を使って、要点を分かりやすく表現することが求められます。

 

ドウダンツツジ

 ドウダンツツジ(青葉山キャンパス)

表に出て目立つときは踏ん張りどころ

 

(7)論理的思考法の習得

研究には、予期せぬ事態はつきものです。きれいに言うと“驚きと感動の連続”ということになりますが、失敗を含めそれらを成功の糧にするためには、不測の事態を的確に考察して理解を前に進めなくてはいけません。そのような時に役立つツールが、論理的思考です。暗中模索のため試行錯誤や絨毯爆撃しかないような時に特に威力を発揮します。論理的な推論の仕方には、個別の事象を1つずつ時間や関係性に基づき繋いで新事象を導く演繹法(ディダクション)、多くの事象から普遍的な事象を導く帰納法(インダクション)、個別の事象を説明できる仮説を立てるアブダクション法があります。それ以外にも、事象と反事象(アンチテーゼ)の設定により隙間を埋めてさらに深い理解(アウフヘーベン)を得る弁証法もあります。研究活動ではそれらの論理的推論を駆使して、事象や情報を合理性に基づき整理していきます。

実際に研究を推進する場合、本質に関わる必要最小限の仮定を基に(オッカムのカミソリ)、目的や理由など必然性を明確化しながら展開を組み立てます。不明なことがあっても、因果律に基づき根拠を意識しながら推論します。目的や目標が明確になれば、それに適した手段を理由を基に選択し、効率よく結果に達するようにアプローチします。すぐには克服手段が見いだせない場合でも、根拠を意識しながら試行錯誤を行い、多くの知見を蓄積・構築して、確度の高い仮説や結論が得られるように努めます。要は、推論に説得力のある理由を付けられるかということです。また、因果律に基づき問題の原因が複数あるのなら、個別の原因に対して明確に対処法を切り分けて考えていくことも、克服策を見いだす上で早道です。そうすることで、その問題に対する理解が深まるだけでなく、別の問題を解くヒントにもなります。

研究活動では、自分の理解やアイデアを他の人に効率よく伝えて、ブラッシュアップしていくことが不可欠です。論理的思考法は、研究における論述や発表の場でも、強力なツールになります。最終的に主張したいことを見定めて、証拠(傍証)の提示と推論・推察を繰り返して、論点を丁寧に順接で繋いで結論へと導いていきます。その場合、聞き手・読み手が疑問を挟まないように、理由を明示して相手の思考を先読みします。そのため説得力が高いため、どんな学術分野においても学会発表や論文執筆の共通テクニックになっています。論理的思考は決して難しいことではなく、要は話の展開に根拠を付けて矛盾や飛躍が生じないようにすることです。このような手法は、企業・社会生活での提案や報告のプレゼンでも大いに役立ちます。

研究者には、どのような時、どのような分野でも、清き美しい流れが求められます。結果でなく論理(説明)ので、評価が大きく左右されることも少なくありません。蟻の這い出る隙間のないように理論武装を行うとともに、論旨を紆余曲折でなく鼻筋を通ったシンプルな電車道にする必要があります。そのため構築した論理構成を、ブラッシュアップして先鋭化するため、批判的な立場から見直すことも必要です(クリティカルシンキング)。議論の際に指摘側は、提示内容を理解した上で、論理の飛躍や矛盾を突きます。また、提示側も真摯に受け止めて、内容や方法に問題はなかったかと自問して、少しでも改善に結びつける努力をします。口に出して議論することで、双方とも気付かなかった曖昧さ(もやもや)や問題が明確になることが多々あります。さらに、論理構成を客観的に図解することも指導しています。論理展開の道筋が分かりやすく自覚でき、もし分かりやすいフローチャートを描けなければ、論理構成に穴・飛び・無理があるため、論点の再整理が必要となります。

日常生活では「理屈っぽい」という言葉はマイナスイメージで使われますが、研究では理由や根拠がないと話が進みません。上記の鍛錬により、論理的思考力を高めていきます。 

 

苔

スギゴケ(青葉山キャンパス)

苔がむすくらいに粘り強く

 

(8)モチベーションの高揚

人の学習では、感心があることには理解や記憶が促進されます。研究の動機付けとしては、研究が成就した時の学術的・社会的なインパクトを深く理解することにより、自らビジョン・夢・目標を設定することが重要です。さらに他の研究者との議論や対話により、自分自身で目標に気付いて自発的行動を促すことにより(コーチング)、さらにモチベーションが高まっていきます。本研究室では、自分で試作品を作って、それらが実際に動くのを見ることができます。さらに試作品を内外に展示することで、実社会との結び付きを再認識するとともに、社会に役立てるため関連企業と連携して実用化を目指していきます。計算・実験・学会発表・出展など、自己研鑽の積み重ねで得た大小の成功体験(アーリースモールサクセスやスモールウィンと呼ばれます)をインセンティブにすることで、スペシャリストとしての自覚を促していきます。また専門性が深まるほど、世界はまだ知らないサプライズで満ちていると感じることでしょう。未知のモノに対するわくわく感が大切です。小さな発見と仮説の立証から始まり、探求心と向上心により世界中で誰も知らないことをいち早く見いだしたり、世の中にないものを初めて生み出したりする喜びと厳しさを、自ら体験して欲しいと思います。それらの光輝く時間は、モノ作りの楽しさを知ってもらうことに他ならず、専門家としての気概・誇りにも繋がっていきます。

研究開発では、エビデンスを積み上げて仮説を立証しながら、目標とする成果物に近づいていきます。成果の確保を焦らず、「地道にコツコツ一歩ずつ」が基本で、日々の取り組みが重要です。文明・文化の発達に大きく貢献した科学技術の進展は、多くの失敗の積み重ねにより見いだされてきました。失敗から科学史に残る多くの発見・発明がなされたと言っても過言ではありません。未踏の研究課題であれば、試行錯誤どころか暗中模索で一進一退となります。逆に、結果が予想できて失敗しない研究は「やればできる」ため、著しくインパクトや意義を欠くことになります。研究分野の世界もハイリスク・ハイリターンです。「そんなことはできっこない、分野の常識です」と言われても、やってみて初めて分かることがたくさんあります。そういった試行から得られる知見は、他の人より先んじた、もしくは生きた情報になるため、研究を進める上での自分の財産・武器になります。このように失敗から得られる知見を大切にするとともに、同じことは繰り返さないように謙虚に反省して、知識を学びとる姿勢を習得して欲しいと思います。

研究の遂行には、熱い想いが何より重要です。難しい課題に対する突破力は、研究の熱意や勢いでも生まれます。客観的に記述された学術論文であっても、チャレンジングでインパクトが高い優れた論文では研究者の執念(?)が伝わってきます。研究に王道や勝利の方程式はありませんが、三度の飯より好きというような気持ちになると、研究がどんどん加速します。テンションが高まって血湧き肉躍る状態まで精神が高揚すると、期待以上の成果に繋がることが多いようです。外から見ると何かに取り付かれたように見えるかも知れませんが、一心不乱に打ち込まないと決して到達できない世界もあります。世の中で知られていない特別な景色を初めて見る喜びを知って欲しいと思います。子供の頃は、誰もが好奇心で目を輝かせていましたが、研究に携わるものは大人になっても好奇心・探求心を忘れるべきではないと思います。研究の世界でも「意志あるところに道は通ず」です。学生がやる気を自ら覚醒できるかが重要な分岐点です。また、啐啄同機(そったくどうき)という言葉の通り、教える側のみならず教わる側も意欲的にならないと、難度の高い研究は一歩も進展しません。

 

総合研究棟

 秋の総合研究棟(青葉山キャンパス)

研究は真剣な議論で磨かれます

 

(9)自己完結力の醸成

学生と社会人の大きな違いは、自分の次の目標を自身で定められるかということかも知れません。少しでも高みを目指すことは言うまでもありませんが、自ら具体目標を課すことで研究活動に張り(緊張)を付けます。もちろん、うまく行かないことの方が多いのですが、そのような時でも課題が洗練化されて次へと繋がります。すぐに反省して、次こそはという目標と気概を持ち続けて欲しいと思います。そこから責任感も醸成されていきます。

研究では課題が難しいほど、単独で取り組むことが求められます。個人の反骨魂やアマノジャク精神が、大きなブレークスルーに繋がります。9回ツーアウトから一打逆転をしたり、蟻の這い出る隙間のないところを一点突破したりすることが、研究の醍醐味です。付和雷同せずに一人でも立ち向かうチャレンジング・ファイティングのスピリットが必要で、時として乾坤一擲の大勝負に出る勇気や度胸も求められます。自分の存在と力を信じて、少しでも議論を前に進めて欲しいと考えています。

研究のプロへの第一歩は、自分で時間を管理して有効に使えるようになることです。研究開発の課題・手段の設定はもとより、時間軸を積極的に設定することで研究計画を構築します。最初はビジョン・目標・課題・手段が漠然としていますが、できるだけ具体化できるように詰めていきます。マイルストーンやバイプロダクト(副産物)も明確にします。作業の階層図(Work Breakdown Structure)や工程表(Gantt Chart)を作って、スケジュールを強くイメージすることも役立ちます。また、目標を掲げた自力走行型の研究スタイルを定着させるため、研究の進展に応じて課題の整理を求めます。これにより、次の課題や目標を自ら見いだしていく能力・習慣を養成していきます。理想を目指した研究に終わりはなく、あくなき向上心が重要です。

また、研究には制約条件(境界条件)が付きものです。大学と企業では研究スタンスが異なり、大学では研究課題の自由度が担保される一方、企業ではリソースの自由度が大きい反面、時間の制約が重くのしかかります。企業では、研究開発職場が裁量労働制であることが多く、自ら責任ある行動がとれるよう自立精神が強く求められます。企業エンジニアとしては、組織のミッションに基づく個別タスクを着実にコンプリートする姿勢が欠かせません。研究室での生活・活動を実社会への出口トレーニングと位置づけて、社会や組織に貢献するための行動様式(コンピテンシー)を身に付けるとともに、社会・組織ルールの規範遵守意識(コンプライアンス)を醸成することに役立てています。これによりタフな課題を担当して直面しても、リソースやガバナンスを駆使して、責任を持って取り組む意識・能力を養成していきます。

研究者に求められる資質としては、(言うまでもないことですが)研究推進能力だけでなく、自律機能が必須です。計算・実験の結果に誤りが見つかれば、そこまで引き返したり、時にはゼロからリスタートしたりします。学術および応用研究の意味・役割を正確に理解することで、科学技術に対するリテラシーを身に付けます。事実・真理に真摯に向き合う姿勢を保ち続けることで、研究のモラルや倫理観を醸成します。

上記のような指針により、研究者やエンジニアとしての自己完結力を養い、真の責任感を涵養していきます。

 

カリン実

カリンの果実(青葉山キャンパス)

日々の努力は必ず実を結びます