大面積化が容易なフレキシブル液晶 フレキシブルディスプレイは、携帯・設置・意匠の自由度を飛躍的に拡大する次世代表示技術として期待されており、今後の生活環境やエレクトロニクス産業を革新していく可能があります。様々な方式の中でもフレキシブル液晶ディスプレイは、大面積化・高精細化が容易、安定性・信頼性に優れる、量産性が高く低コストなどの特徴があり、現在、注目されています。
高画質で柔軟性に優れたフレキシブル液晶ディスプレイを実現する早道は、ガラス基板をプラスチック基板で置き換えることです。その場合、プラスチック基板、透明電極、スペーサ、配向膜、偏光板、光学補償フィルム、シール樹脂をはじめ、様々な部材を改良する必要があります。ここでは、フレキシブル化や低温形成に適した部材を探索するとともに、それらの組合せ・摺り合わせにより、実用的なフレキシブルディスプレイを構成するためのデバイス研究を進めています。
[電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ賞(2013)] [日本液晶学会業績賞(2017)] [映像情報メディア学会丹羽高柳賞業績賞(2018)] [東北大学電気通信研究所共同研究プロジェクト(2017-2019)]
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ■ 液晶デバイスのフレキシブル化 ● 極薄基板を用いたデバイス作製工程 プラスチック基板は、画素形成工程時の耐熱性・寸法安定性に課題があります。そこで、安定なガラス保持板上に極薄プラスチック基板を塗布形成して、画素を形成した後、基板を剥離させる方法が注目されています。ここでは、塗布・剥離で形成した極薄基板を、液晶デバイスの作製工程に応用する研究を進めています。これにより、極薄で超柔軟構造の液晶ディスプレイを実現できます。 [国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2015)] [国際会議SID Distinguished Paper Award (2016)] [東北大学電気・情報系
優秀学生賞 (2016)] [電子情報通信学会英文論文誌 招待論文 (2016)] [電子情報通信学会 論文賞 (2017)]
● 液晶中で形成して基板を接合する高分子壁スペーサ プラスチック基板を用いたフレキシブル液晶ディスプレイでは、湾曲変形などに対して安定なデバイス構造が求められます。そこで、分子配向性の高分子材料(樹脂)を液晶中に溶かして紫外線パターン露光を行うことで、液晶配向を乱さず2枚の基板間隔を一定に接合・保持する高分子壁スペーサを形成できます。この技術を用いれば、あらゆる液晶方式のディスプレイをフレキシブル化できます。
● 基板表面の濡れ性を用いた高分子壁スペーサの形成 紫外線露光を用いた従来のポリマー壁形成プロセスでは、配線や電極などを含む表示パネル内に紫外線のパターン露光を行う必要があります。さらに、液晶・モノマー均質溶液のモノマー重合に伴う液晶・ポリマー相分離を利用するため、析出する液晶や高分子の不完全な分離状態が問題となります。そこで、互いに溶解しにくい液晶・モノマー混合液を基板表面の濡れ性の差違で分離して、高分子壁を形成する研究を進めています。 [国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2016)] [電子情報通信学会英文論文誌 招待論文 (2017)] [映像情報メディア学会情報ディスプレイ研究会学生奨励賞 (2018)] [電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ優秀学生修了表彰 (2018)] [東北大学総長賞 (2018)]
● 構造転写法を用いた勘合スペーサ フレキシブル液晶の湾曲した際に、2枚のプラスチック基板が横ずれしてカラー画素が混色しないように、勘合スペーサの研究を進めています。ここでは、シリコン樹脂モールドに基づき加工精度の高い構造転写技術を用いて、凹凸構造のスペーサを形成することにより、基板ずれを抑制する試みを進めています。
● ブルー相液晶デバイスのフレキシブル化 フレキシブルディスプレイでは、大画面化や湾曲化を伴う用途を想定するため、これまで以上の高視野角化が求められます。そこで、黒表示が得られる光学的に等方相のコレステリックブルー相液晶を、フレキシブルデバイスに応用する研究を進めています。ここでは、特にプラスチック基板の間隔やブルー相の配向状態を、高分子の壁やネットワーク構造で安定化することを目指しています。 [科学研究助成費 基盤研究C (2013-2015)] [映像情報メディア学会学会誌招待論文 (2016)]
■ フレキシブル液晶の周辺部材技術 ● プラスチック基板の光学補償 フレキシブル液晶ディスプレイでは、従来のガラス基板の替わりにプラスチック基板を使用します。フレキシブル液晶ディスプレイに用いるプラスチック基板の3次元光学異方性を、偏光解析法により精密に測定する技術を構築しました。この評価手法を基に、黒レベルを抑制して高コントラスト化・高視野角化を実現するため、種々の液晶方式(VA、IPS、TNモードなど)に適した光学補償法を開発・提案しています。 [放送文化基金助成(2013)] [日本液晶学会論文賞A部門 (2015)] [国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2013)]
● 湾曲時のプラスチック基板の光学特性 フレキシブル液晶ディスプレイでは、湾曲時のプラスチック基板の光学異方性が表示動作を左右します。そこで、ポリカーボネートフイルム基板の弾性歪みと光位相差を高精度に測定・解析しています。これにより、フレキシブル液晶に適したプラスチック基板を探索するとともに、高コントラスト化・広視野角化のための光学補償技術を構築します。 [電気科学技術奨励学生賞
(2017)] [電子情報通信学会英文論文誌 招待論文 (2017)]
● 湾曲時の液晶層厚の評価技術 高画質のフレキシブル液晶を実現するためには、湾曲した際の液晶層の膜厚変化を正確に把握する必要があります。そこで、液晶層の膜厚を複屈折やその波長依存性から求める評価法の研究を進めています。これにより、スペーサ構造やプラスチック基板の設計が可能になります。
● フレキシブル液晶パネルの構造解析 フレキシブル液晶ディスプレイのパネルは、液晶を封じる柔軟基板(プラスチックフィルムや極薄ガラスなど)の周囲を、シール剤(樹脂)で固定した構造を有しています。そのような固体の不均一接合構造を湾曲した場合、基板やシールの硬さにより、面内で複雑な歪みや応力が生じます。ここでは、基板歪みが画質に及ぼす影響を明らかにするため、材料力学による構造解析・機械強度シミュレーションを進めています。
● 湾曲するフレキシブルバックライトの輝度均一化 現在の液晶バックライト用導光板は薄型化が進んでおり、既に柔軟な構造になっています。そのようなバックライトを湾曲させた場合、その周辺では光放出方向が観察者からそれるため、暗くなってしまいます。そこで、湾曲時のみ切れ目が開いてバックライト光を観察者に向ける可変光偏向フィルムの研究を進めています。 [国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2018)] [電子情報通信学会英文論文誌 招待論文 (2019)]
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