視認しやすい撮影用適応光学液晶フィルタ

 

光の多様な属性(強度、波長、偏光、位相、伝搬方向など)を自在に電圧制御できる液晶デバイスは、ディスプレイのような画像出力分野に用途が限られるものでなく、入力技術である撮像用の適応光学フィルタに有用です。現在、多用されているSi半導体をベースとしたイメージセンサ(CMOSCCD)は、光の強さを電荷の量に変換します。しかし、線形関係など強度を適切に再現可能な入力範囲(ダイナミックレンジ)が限定されるとともに、波長選択機能は3原色に限られます。その他の光属性にいたっては弁別機能もありません。そのため、現状のイメージセンサでは、光画像の持つ情報をすべて検知・弁別できていることにはなっていません。

仮に、多様な光の属性を的確に弁別できれば、既存の撮像素子はもとより、人の視覚でも得られない新たなイメージング技術を創出できます。例えば透過波長を的確に制御すれば、多原色、マルチスペクトル、ハイバースペクトルなどの特殊撮影が可能になります。そこで、光領域での処理を可能とする液晶デバイスの出番です。これまで液晶は主に画像の出口(電子ディスプレイ)に活用されてきましたが、入力分野でも威力を発揮します。

 

撮像用の液晶フィルタの役割

 

昨今、液晶フィルタは制御可能な適応光学デバイスとして、様々な分野への応用が期待されています。例えば、ヘルスケアー・医療用のモニタ、農業・水産業・林業・工業など食品・製造物の識別などです。さらに将来、マシンビジョン・ロボットビジョンの進展により、その用途は一層拡大すると予想されます。本研究室では、個々の用途に応じた機能性液晶フィルタを創出・提案するため、実用性の観点から材料・デバイスの開発を進めています。

 

● 液晶フィルタとイメージセンサの連動

 

液晶フィルタによる光領域の処理と、映像信号の電気領域の処理を連携させれば、これまでできなかった高度なイメージングも可能になります。例えば、液晶フィルタとイメージセンサの動作を同期させることもできます。さらに、イメージセンサから出力された映像情報を基に、実時間で液晶フィルタを制御すれば、目的に即した高精度の画像処理が可能となります。

 

画像信号に基づく液晶フィルタの実時間駆動

 

● 透過波長を連続制御できる液晶フィルタ

 

無機・有機に限らず物質や材料は、原子・分子構造の振動や電子軌道に基づき、固有波長の電磁波(可視光はもとより紫外線、赤外線、ミリ波・サブミリ波・テラヘルツ波など)を吸収・放出します。その波長の光を光学フィルタにより的確に抽出できれば、被写体の構成材料やその状態を把握できます。そのため波長可変フィルタは、科学計測分野をはじめ極めて広範な用途展開が期待できます。ここでは、液晶層の複屈折変化に基づき透過波長を制御できる液晶フィルタを高性能化・高機能化するため、デバイス構造や駆動技術に関する研究を進めています。

 

液晶リオフィルタの構造

 

● 誘電体多層膜フィルタを活用した波長可変バンドパス液晶フィルタ

 

従来の液晶フィルタにおいて狭帯域光を抜き出そうとすると、厚い液晶セルを挿入してセル数を増やす必要がありました。そこで、複数の狭帯域透過域(固定)を有する誘電体多層膜フィルタと、それらの狭帯域バンド光を複屈折効果と偏光板で個別に遮断する複屈折型液晶フィルタを積層することで、可視域から近赤外域の複数のバンド光(半値角5nm)を実時間で選択できるコンパクトなフィルタを検討しています。

(本学技術社会システム専攻 須川・黒田研究室

および仙台高専 若生研究室と連携)

 

試作した液晶フィルタの外観

 

● 光透過率の高い撮像用液晶バンドパスフィルタ

 

偏光板を用いて複屈折効果により波長を選択する液晶フィルタでは、入射する自然光の半分を失ってしまいます。そこで分光イメージング用に、偏光を必要せず光の多重干渉で透過波長域を選択する液晶デバイスの研究を進めています。ここでは、入射偏光の依存性が生じず高速応答特性の高分子安定化ブルー相液晶で、エタロン共振器を構成しています。これにより、水やグルコースが特異的に吸収する波長の近赤外光を駆動電圧の切り替えで取り出して的確に撮影することが可能になりました。

科学研究助成費 基盤研究B (2019-2021)]

 

光利用効率の高く高速応答なバンドバスフィルタの原理