生活環境を賢く支えるスマート光学

 

光機能性有機材料である液晶は、今後、社会や生活を豊かにする様々な最先端の光学分野で活用される可能性があります。例えば、照明や空調の省電力化などの省エネや、プライバシー保護に役立つスマートウインドウ用調光ガラス・フィルムが注目されています。また液晶は、照明器具の光照射範囲を制御できる配光可変デバイスなど、様々な分野に応用できます。さらには、拡張現実感用のスマートグラス、自動車用の電子ミラー、3次元測距用レーザー光偏向素子、光通信用スイッチなどにも応用が期待できます。その一方で、スマート農業において植物成長を促進する光学デバイスとしても応用が期待できます。

 

多様な光機能で生活を支援するスマートウインドウ

 

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調光が可能なスマートウインドウの役割

 

 

  スマートウインドウ用の光散乱性液晶

 

従来の液晶・高分子複合膜(高分子分散液晶)は、電圧印加がない場合、光散乱により白濁して不透明ですが、電圧を印加すると透明になる特性を有します。そのため、現在、建材用の調光ガラスとして実用化されています。仮に、逆の電圧動作も可能になると、照明・冷暖房の節減のためのスマートウインドウを省電力で駆動できるとともに、移動体のセキュリティ用窓ガラスにフェールセーフ機能を付加できます。それ以外にも、プロジェクタ用途の機能スクリーンなども想定されます。そこで本研究室では、印加電圧がない状態で、濁り(ヘイズ)がなく透明度が極めて高い配向制御型高分子分散液晶の材料・作製技術に関する研究を進めています。

 

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高分子分散液晶のリバース動作

(右:透明状態、左:白濁状態)

 

  スマートウインドウ用の柔軟性調光フィルム

 

プラスチックフィルム基板を用いて電圧可変の液晶調光デバイスを実現できれば、既存の窓ガラスに簡便に貼り付けて使用でき、設置の利便性が飛躍的に向上します。さらに丸められるようになれば、大面積素子であっても持ち運びが便利になります。そこで巻いた状態でも、柔軟基板の間隔を保持できて壊れないスペーサの構造・材料・形成工程に関する研究を進めています。接合スペーサの形成法としては、紫外線パターン露光による重合壁スペーサ、フォトリソスペーサや転写スペーサの上部接着などの方法が有用です。

 

  光吸収型の調光デバイス

 

コレステリックブルー相を用いた液晶は、分子配向が微細にねじれているため、その中に2色性色素を添加することで、あらゆる方向の入射光を吸収できるようになります。ここでは、色素添加のブルー相液晶デバイスの分子配向を、微細な高分子分散により安定化する取り組みを進めています。

IEEE Sendai Section Student Awards, The Encouragement Prize (2017)]

 

色素を添加したブルー相液晶デバイス

 

  光合成促進用の波長・偏光変換塗布膜

 

将来の食料危機も見据えたスマート農業では、栽培植物の成長を促して収穫量を増やすことが求められます。そのためには、農作物の光合成色素(不斉炭素を含むクロロフィル)が好む波長(青、赤) と円偏光(左旋)を、太陽の自然光から作り出す必要があります。ここでは、蛍光性有機色素を液晶高分子で配向させて固定することで、ビニールハウス塗布用で大面積形成が可能な波長・偏光変換膜を開発しています。植物にも優しい適応光学技術と言えます。

[国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2020)]

[電気学会2021年電子・情報・システム部門 技術委員会奨励賞(2022)]

 

波長・偏光変換膜の役割

 

  超高速な液晶技術

 

通常のネマチック液晶では、電圧印加時の駆動応答に比べて、電圧除去時の緩和応答が著しく遅くなるという問題があります。そのため、液晶デバイスを光通信などの光変調器に応用するのは困難でした。それに対して自発分極を有する強誘電性液晶は、永久双極子モーメントを発現し、それを印加電界で直接駆動できるため、23桁高速な応答(数十μs)が得られます。ここでは液晶応用分野を拡大するため、強誘電性液晶材料の配向制御とデバイス応用技術に関する研究を進めています。

 

550nm_10V

試作した強誘電性液晶デバイスの高速応答特性