■ 講演概要

講演タイトル:実用化に向けたマイクロシステム融合研究開発」

講師:東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
       (兼) マイクロシステム融合研究開発センター長
       江刺 正喜 氏
       http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/research/researcher/esashi_m.html


概要:

半導体集積回路は多数のトランジスタで高度な情報処理を行うことが
できるが、センサやアクチュエータなどの異なる要素を融合することで
さらに高度な機能を持つことができる。このマイクロシステムあるいは
MEMS (Micro ElectroMechanical Systems)と呼ばれる技術について述べる。
システムの鍵を握る要素として使われることが多いため付加価値は高いが、
多様で品種ごとに異なり開発コストがかかり、また小量しか使われないこと
が多い。このため、設備や知識を共用する体制のオープンコラボレーション
が重要である。
 1980年頃から自動車のエンジン制御などに圧力センサが、また1990年頃から
エアバックの衝突検出に加速度センサが使われ、現在ではモバイル機器の
ユーザインターフェースなどに加速度センサやジャイロなどが多く用いられ
ている。アクチュエータやセンサを回路と一緒にしてアレイ状に多数配列で
きるため、1990年頃からプリンタヘッド、また2000年頃からピデオプロジェ
クタや熱型赤外線イメージャなどがこの技術で作られてきた。この他、
小形化で高感度になるため走査プローブ顕微鏡のプローブなどの研究機器、
また低侵襲医療機器などにも役立っている。
企業が人材を派遣して共同開発などで製品化しているが、これにはアクチュ
エータを用いたものとしては、地下鉄などに使われている「静電浮上回転
ジャイロ」(直径1.5mmのSiリングが高速ディジタル制御で74,000回転)、
あるいは駅のプラットフォームドアなどでの距離画像装置に使われている
「2軸光スキナ」、LSIテスターに使われる熱型や圧電型の「MEMSスイッチ」
などがある。
 モバイル機器で高速大容量化しまた通信障害を回避するため、
マルチ周波数化する目的で高周波チップ上にスイッチやフィルタなどを実現
することを研究している。また人と接する介護ロボットなどを安全にするため、
表面に触覚センサを張りめぐらせたシステム、あるいはアクティブマトリクス
面電子源による超並列電子線描画装置などの研究を行っている。このためMEMS
とLSIのウェハどうしを樹脂接合してLSI上にMEMSを転写する技術を開発した。
また外注で製作する高価なLSIウェハを競合し合わない16社で製作する
「乗り合いウェハ」を工夫して、開発のコストやリスクを低減している。
オープンコラボレーションとして、以下のような試みをしている。
研究室では自作の設備を中心にして2cm角のウェハを処理する試作設備を
使っており、他の研究室や企業に自由に利用してもらっている。多品種少量品
の開発や少量生産を行うのに機関ごとに設備投資するわけには行かないので、
使われなくなって大学に寄贈された4インチ6インチウェハ用の半導体施設を
整備し、自分で行って使う「試作コインランドリ」
http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/coin/index.htmlを運営している。
毎月400件ほどで150社以上から利用されている。2013年7月より、
ここでできたものを製品として市販することも関係者の努力で認められた。
この施設は大中小の企業以外に、ファブレスのベンチャ企業や、企業が中止
したプロジェクトの設備を譲り受けたスピンアウト企業などにも利用されて
いる。
 また毎年場所を変えて、無料の「MEMS集中講義」を3日間開催している。
世界中から集めた100点以上のサンプルなどを展示した「仙台MEMSショー
ルーム」http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/showroom/index.html を見学して
頂いている。この他国際的な連携も大切で、ドイツのフラウンホーファ研究
機構と仙台市は2005年に提携協定を結んで、毎年「フラウンホーファ in 仙台」
のシンポジウムを開催している。フラウンホーファ研究機構の研究員が、5名
ほど研究室に常駐して共同開発しており、2012年からプロジェクトセンターが
開始された。ベルギーにある半導体研究機関のIMECとは、2012年から戦略連携
校 (米国はスタンフォード大学、欧州はスイスのローザンヌ工科大学) となり
合同発表会(毎年交互開催)や共同開発をしている。


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