ホールスラスタ(Hall thruster)

A3TB2162 中西良太

 

ホールスラスタは電気推進機の一種で,ホール電流を利用した推進機です.エネルギー変換効率が50%以上と高く,また高い比推力を発生します.その作動原理より,イオンエンジンと比較して一桁以上高い推力密度が得られ,そのため小型で軽量な推進機となります.

 

原理

ホールスラスタは下図に示すように,陽極と陰極と軸方向に電界,半径方向に磁界が加えられた加速チャネルを持っており,陰極から放出された電子は加速チャネルに入り,電場と磁場の作用により周方向にホール運動を行う.この電子が推進剤を電離させイオンが生成される.このイオンは電界で加速されて軸方向に飛び出し,この反作用で推進機の推力が得られる.排出されたイオンと同数の電子を陰極から放出することで推進機の電気的中性が保たれる.加速チャネル内でホール運動している電子は,電位差により獲得したエネルギーを推進剤の電離に使いながら,徐々に陽極方向に移動し陽極へと流れていく.ホール運動を行う電子によって加速チャネル内に環状に流れる電流をホール電流と呼び,ホール電流を用いた推進機だからホールスラスタと呼ばれる.

 

 

 

 

特徴

ホールスラスタは電気推進機の一種で以下のような特徴があります.

 1. 比推力が10003000秒で推進効率が50%以上と高い

 2. 比較的大きな推力密度が得られるため、スラスタがコンパクトである

 3. イオンエンジンと比べてスラスタの構造が簡単で、電源の数も少なくて済むため信頼性が高い

 4. 高電圧を必要としないため電源もコンパクト

 5. 電気推進機にとって重要な性能である、推力・電力比が大きい

などが挙げられます。

 

このため人工衛星の南北制御などに非常に有効な電気推進機と言われています.また,すでに何機も実際の人工衛星に搭載されており,非常に高い信頼性を持っています.イオンエンジンと比較して,加速部で電気的な中性が保たれるため,空間電荷制限電流則による電流密度の制限を受けずイオンエンジンより一桁以上の高推力密度が可能であり,これが軽量コンパクトにつながっています.