スクラムジェットエンジンについて     A6TB1194 西村康孝

 

.原理

現在広く利用されている航空機用ジェットエンジンはターボジェットエンジンと呼ばれており、エンジン内部に大きな扇風機のようなものが設置されている。(図1)エンジンに入ってきた空気は、圧縮機の翼列で圧縮されて高圧になり、燃焼器に送られて燃料と混合されて燃焼する。そして高温高圧のガスとなって圧縮機の動力となるタービンを駆動し流出する。

これに対して機械的な圧縮機をつかうことなく、動圧、つまりラム圧によ

り圧縮された空気に燃料を吹き付けて燃焼させて推力を得るエンジンをラム(RAM)ジェットエンジンと呼ぶ。このうち燃焼を超音速で行うものをスクラムジェットエンジン(図2)と呼ぶ。スクラム(SCRAM)とはSuper Combustion Ramの略である。スクラムジェットエンジンは燃焼速度の速さが要求されるため燃料には水素が用いられる。 

       

2.利点

 スクラムジェットエンジンとは超音速燃焼(Supersonic combustion)を行うラムジェットエンジンである。ラムジェットエンジンとの違いは、エンジン全域で超音速が保たれる点にある。インテイクから吸入された超音速の大気は、超音速のまま燃焼機に導かれ、超音速燃焼がなされ、燃焼ガスが超音速でノズルから噴射される。このように吸入から排気までのエンジン全域にわたって、作動流体が音速以下に減速されることがないため、広いマッハ数域で高いエンジン性能が維持される。スクラムジェットエンジンでは、超音速で流れ込む空気を亜音速にすることなく流出するので、エンジン内に垂直衝撃波を作らないという特徴がある。このため、衝撃波による圧力損失を他のエンジンに比べて低く抑えることができる。これらの特徴から、スクラムジェットエンジンは他の空気吸い込み型エンジンでは動作の難しいマッハ数4から12という非常に高いマッハ数で運転することが可能である。実際NASAでは、およそマッハ10での飛行試験に成功している。スクラムジェットエンジンは、マッハ5程度から、理論値の上限であるマッハ15までの広い速度域での利用が期待されている。

3.欠点

 超音速の気流内で燃焼させなければならないため、エンジン内で燃焼が完了しなかったり、通常の燃焼とは違う意図していない化学反応が起こったりなど、実現が困難である。また スクラムジェットエンジンの研究には高温衝撃風洞が一般に用いられるが、この装置で得られる試験時間は数十ミリ秒に過ぎない。真空槽を用いた極超音速風洞では数十秒オーダーの燃焼実験が可能だが、大規模な施設であり実験コストが非常に高い。それから静止状態では作動しないため、作動し始める速度までは他のジェットエンジンなど、別の動力より加速する必要がある。スクラムジェットエンジンは簡単な構造が特徴だが、様々な気流条件に対応しづらいという課題もある。例えば、構造を簡単にして形状を固定すると、エンジンの冷却は容易になり、設計された条件では高い性能を実現できる。一方で、加速途中など設計値からずれた気流条件では最適な条件を作れないという欠点がある。また、刻々と変化する条件に対応するため、エンジンの形状を可動式にすると、冷却が困難になり、高いマッハ数での運転が容易ではなくなる。

4.応用例とその将来計画

 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)では先進型宇宙輸送システムのエンジンとしてスクラムジェットエンジンの開発を1987年以来進めてきた。そして、平成14年の燃焼実験においてマッハ8条件下において世界で初めて正味推力発生に成功した。正味推力とは飛行機が飛行中エンジンも空気抵抗を受けるがエンジンが発生する燃焼推力からその抵抗を差し引いたものである。つまり、正味推力は機体を押す力である。また、米航空宇宙局(NASA)はスクラムジェットエンジン搭載の無人ジェット実験機X-43Aでマッハ9.6の飛行に成功し、将来の極超音速旅客機の実現に近づいた。しかし、NASAは新しい宇宙探査構想(月や火星)へ予算を振り向けるために、このプロジェクトから撤退する予定である。

 

改良型燃料噴射器写真高温衝撃風洞

左図 角田宇宙センター高温衝撃風洞の実験の様子

上図 角田宇宙センター改良型燃料噴射機
5.参考

 http://www.iat.jaxa.jp/kspc/japanese/research/hyshot/

 http://www.es.titech.ac.jp/yamasaki/scram-j.html

 http://ja.wikipedia.org/wiki 

 http://www.jaxa.jp/press/2006/03/20060320_ramjet_j.html

 http://www.yamaguchi.net/archives/000732.html