光圧推進に関して

T 原理

光の粒子が太陽帆を形成する薄膜に当たり反射すると2通りの現象が起こり得る、1つは、光子が帆を構成する原子の周りの電磁波と衝突(弾性衝突)しをして跳ね返る光の反射、もうひとつは、光子が帆に吸収され、帆が少し加熱される光の吸収で、光の運動量に着目すると、光の吸収では、光子がもともともっていた運動量が帆に追加されるだけだが、光の反射では、光子は向きが反転した運動量をもつことになるので、帆の側で考えると、光子の2倍の運動量が追加されるので、こちらのほうが効率が良い。(ここでは下の、T 太陽光によって得られる推進力、の説明における反射率kが問題になってくる。)

 

T 太陽光によって得られる推進力

ソーラーセイルは、太陽光の圧力を推進力にして宇宙を航行する。光の圧力(光圧)は非常に小さなものであるが、帆を大きく、軽くすることによって推進力として利用できる。

 


1-1 はその原理を説明したもので、P0は光圧、θはセイルへの入射角及び反射角(この二つは等しくなる)、S はセイルの面積、F は得られる推進力の大きさである。セイルの反射率が k (0k1) だとすると、これらの関係は次式で表される。

   式1-1

ここで、αはセイルの法線と推進力方向間の角度である。したがって、推進力の大きさと向きは、セイルの反射率 k と太陽光の入射角θに依存することになる。

(光圧Fは余弦定理

αは正弦定理

 で求められる。)

次に太陽光圧力 P0は、k1 を太陽放射定数、r を太陽からの距離、c を光速とすると、光圧は次式のようになる。

   式1-2

ここで、k1 = 3.85×1026[Nm/s]c = 3.00×108[m/s] である。太陽と地球間の距離 re = 1.50×1011[m/s]より、地球付近の太陽光圧は、P0e = 4.57×10-6[N/m2] となる。

式(1-2)からわかるように、

であるので、地球付近では、

よって、ソーラーセイルの推力はセイル面積に比例するため、面積を増やしたときに質量がどれだけ増えるかが問題になる。言い換えれば、いくらセイル面積を増やし大きな推力を得ても、その分質量も増えるため加速度は変わらない、すなわち加速度は面積密度に依存するのである。

 

U 面積密度

セイル材料の密度をρとし、その材料を厚さ t のセイルにしたとする。また、Msをセイルのみの質量、S をセイル面積だとすると、面積密度σは次のように表される

運動方程式 Ma = F (1-1)を代入して θ= 0 に固定すると次式が得られる。

ここで、セイル以外の質量がセイル質量に比べて非常に小さくセイル質量が全質量と見なせるならば、M = Ms だから、上の2式より、

となり、上式にはセイル面積 S が含まれず、加速度がセイル面積に依存しないことを示している。面積密度が分母にあることより、面積密度が小さいほど加速度が大きくなり有利であることがわかる。

 

U 実用化と現状

実際に宇宙船の推力源として太陽帆を利用するためには、極めて軽量かつ極めて広い面積を保持できる薄膜鏡が必要であり、初期にはアルミニウムの薄膜などが太陽帆の素材として候補になっていたが、あまりにも強度が不足しており、特に巨大な帆を宇宙空間で広げる際に帆を壊さずに広げる技術の開発が難しかった。しかし近年になって炭素繊維など素材の研究開発が進み、太陽帆に使用可能な薄膜の生成に実現性が帯びてきた。

太陽帆の研究は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) を始めとして、世界各国で行われている。アメリカ惑星協会は2001年と2005年に太陽帆式宇宙船「コスモス1」の試作機を打ち上げたが、いずれも打ち上げ用ロケットのトラブルで衛星軌道に乗れず失敗した。三度目の打ち上げは2007年に予定されている。

日本では、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)の宇宙科学研究本部により研究が行われている。2004年8月には太陽帆実現を目的とした、直径10m、厚さ7.5μmのポリイミドフィルム製の大型薄膜の宇宙空間での展開実験に成功している(下参照)。

参照

http://www.aero.kyushu-u.ac.jp/solar_sail/solar_sail.html#riron

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%B8%86

http://www.isas.ac.jp/j/snews/2004/0809_s31034.shtml