研究紹介

1. ライブセルイメージングに基づく「分子動態生理学」(詳細版)

ナノ計測系 社会インフラにおいて必要不可欠なシステムの一つに、様々な物質をそれを必要とする時に適切な場所へと送り届ける「物流輸送」があります。これは生命活動においても同様です。すなわち、細胞内に存在するありとあらゆる分子や構造体は、それが働くべき時に働くべき場所に存在していることが必須であり、このシステムが破綻することは様々な機能障害・疾患へと直結すると考えられます。このような細胞内における物流システムを精度高く計測するために有効な手段が、生きた細胞の内部で起こる事象をそのまま観察できる「ライブセルイメージング」です。
 私たちはこれまでに、細胞内における物流システムを高精度に評価するために、ライブセルイメージング技術に基づいて、細胞内分子の動きを1分子レベルで高精度に観察・解析し、分子動態(=個々の分子挙動を要素とする動的平衡状態)を定量的に評価できる新たな計測系を確立してきました。そしてこの手法を、骨格筋や脂肪組織においてインスリンや運動によって促進される血糖の細胞内取り込み(=血糖降下作用)を直接担う糖輸送体GLUT4という生体内の精緻な血糖調節機構に必須のタンパク質に適用してきました。

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GLUT4 translocation GLUT4は通常、GLUT4ストレージコンパートメントと呼ばれる細胞内の特別な部位に貯蔵されています。ここにインスリンや運動の刺激が加わると、GLUT4はストレージコンパートメントから細胞膜へと速やかに輸送され、糖輸送体としての機能を示すことができるようになります。GLUT4トランスロケーションと呼ばれるこの過程は、2型糖尿病で特徴的なインスリン抵抗性下で顕著に障害されています。現在までのGLUT4研究の長い歴史の中で、GLUT4トランスロケーションを調節する極めて多数の分子の存在が明らかになってきました。その一方でGLUT4自体の細胞内における振る舞いはほとんど知られていませんでした。その最たる理由が、GLUT4輸送を研究するための技術の限界でした。これまでの生化学・分子生物学的手法を用いたGLUT4研究は「細胞膜に現れたGLUT4の量」を調べることによって行われてきましたが、これでは細胞内の様々な形態を持つ構造体を経由した極めて複雑な過程を経て起こる「細胞の内部で起こるGLUT4輸送」を直接調べることができません。そのために、例えば「細胞内におけるGLUT4の貯蔵機構」という最も基本的な事柄についても対立する2つの仮説(static retentionとdynamic retention)が並立し、明確な回答の出せない状況でした。
 この状況を打破するための最適な手法が、私たちの確立した新しい計測系です。私たちの計測系によって細胞内におけるGLUT4の動態を直接観察し定量化することで、細胞内でどのようにGLUT4が動いているかを計測することに成功し、その結果「細胞内におけるGLUT4の貯蔵機構」が"static retention"であると明確に回答するとともに、インスリン応答性に起こるGLUT4輸送の分子基盤をシステムとして解明することに成功してきました。

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 現在、多くのライブセルイメージングでは、細胞内に存在する膨大な分子の(ほぼ)全てを染色して観察する手法が用いられています。しかし、細胞内の分子動態を知るためにはこのような全数調査は不必要であり、一般的に広く行われる商品の抜取調査などと同様、無作為に抽出された少数の分子の動態を精密に計測することによって全体像を推定できるものと考えられます。私たちは、この計測系を様々な分子に適用することによって、分子動態に基づく細胞機能の理解、すなわち「分子動態生理学」の確立を目指します。

<この研究テーマに関する発表論文>

  1. Fujita, Hatakeyama, Watanabe, Sato, Higuchi & Kanzaki. Identification of three distinct functional sites of insulin-mediated GLUT4 trafficking in adipocytes using quantitative single molecule imaging. Mol. Biol. Cell 21, 2721-2731, 2010 DOI:10.1091/mbc.E10-01-0029
  2. Hatakeyama & Kanzaki. Molecular basis of insulin-responsive GLUT4 trafficking systems revealed by single molecule imaging. Traffic 12, 1805-1820, 2011 DOI: 10.1111/j.1600-0854.2011.01279.x
  3. Hatakeyama & Kanzaki. Regulatory mode shift of Tbc1d1 is required for acquisition of insulin-responsive GLUT4-trafficking activity. Mol. Biol. Cell 24, 809-817, 2013 DOI: 10.1091/mbc.E12-10-0725

2. 新しいタイプの細胞工学技術開発と高次機能細胞の創生

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<この研究テーマに関する発表論文>

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3. 生活習慣病や脳機能疾患における「生体ナノシステム障害」の究明

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<この研究テーマに関する発表論文>

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4. バイオメディカルナノサイエンス

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<この研究テーマに関する発表論文>

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