非破壊配電線劣化検出システムの開発

1.配電線の傷検出の重要性

電気を家庭へ送る配電線(電線)は、過酷な自然環境にさらされているため、年月とともに劣化し傷ができてしまうことがあります.傷は電流の障害(=損失)となるので,日本中に張り巡らされている配電線の傷検出はエネルギーの無駄をなくすために重要な意義をもっています.

2.非破壊検査による探傷システム

しかし,この配電線には絶縁用の被覆が施されているため、見ただけでは傷を発見することができません。また,配電線を取り外して一本一本調べてしまうと,手間がかかるうえ,その配電線が送っていた家庭は停電状態になってしまいます.
そこで当研究室では、配電線に流れている電流が作る磁界(磁束密度)の分布を利用して,配電線に触れることなく傷の検出を行う方法(非破壊検査)を提案しています.

3. 検出システムの原理 1

ビオ・サバール(Biot - Savart)の法則によると,ある地点における磁束密度の強さは,電流が流れているライン(今回は配電線)からの距離の2乗に反比例します.傷がない配電線は,中心軸に対してほぼ対象な形をしているので,配電線の周りにも対称な磁束密度の分布ができています(図1).
傷があるということは,この対称性が崩れることになるので,傷がある断面において磁束密度の分布もくずれてしまいます(図2).この磁束密度分布の違いを検知することで,配電線を使用しながら傷を探すことができるのです。

Fig.1 配電線周囲の磁束密度分布

4.検出システムの原理 2

配電線断面における磁束密度分布を利用した探傷法として,配電線の中心位置計算が用いられています.傷がない場合は,磁界ベクトルに垂直な直線の交点は,図2(a) に示すように配電線の中心位置と一致します.しかし,傷がある場合,配電線周囲の磁束密度分布は同心円状にならなりません.そのため,磁界ベクトルに垂直な直線の交点は図2(b) に示すようにばらつきを生じてしまいます.このような中心位置座標の分布の違いより,傷の有無を判別することができます.

Fig.2 中心座標による傷判定

5.現状と課題

先述した3,4に基づく原理を実現するセンサ回路および計算プログラムを作成して傷検出試験を行いました.この実験では,断面積60 mm2, 導線直径9.2 mmの6.6 kV難着雪形圧縮導体屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線を用いました,センサ回路のサイズは直径15 cmの1枚基板でした.この試験では,幅0.3 mm,深さ 1 mmの傷の検出に成功しました.
傷の深さや幅が小さくなっていくと,まだまだ検出精度は高くないのが現状です.「より小さな傷」を「簡単に」「確実に」検出できるように精度向上を目指して研究しています.