超小型体内埋込インプラントFES・TES装置の開発

電気刺激治療

近年,様々な神経系の障害に対する電気刺激療法の有効性が確認されてきました.神経に支配される臓器は全て電気刺激に反応します.そのため電気刺激療法の適用範囲は広く,VNS(迷走神経刺激)やCNC(脊髄電気刺激),GES(胃電気刺激)など様々な部位・症例に対して有効です.また,ほとんど副作用なく治療できるため,電気刺激療法の期待は非常に高まっています.

我々のグループは,様々ある電気刺激療法の中でも,ニューロモジュレーションを目指すTES(治療的電気刺激)麻痺に対するFES(機能的電気刺激)に焦点を当て,新たな刺激方式である"直接給電法"の実現に向け研究を進めています.

TES - 治療的電気刺激

異常をきたす神経系に対して何らかの方法により刺激を与えると,神経活動が正常化する場合があります.この医工学技術をニューロモジュレーションといい,特に電気刺激によるニューロモジュレーションをTES (Therapeutic Electrical Stimulation : 治療的電気刺激 ) と呼んでいます.

TESの適用範囲は非常に広く,てんかんや嚥下障害,パーキンソン病,うつ病,過活動膀胱,月経困難症など,体中の様々な神経系障害に対して高い効果を示します.また,即効的で効果持続時間も長く,副作用もほとんどないため,今後の発展が望まれる治療の一つとなっています.

FES - 機能的電気刺激

FES ( Functional Electrical Stimulation : 機能的電気刺激 )は,電気刺激を用いて 麻痺患者の運動機能を再建・補助する治療法のことです.

人間の動作は,脳から発生した信号が脊椎を介し,末梢神経を経て筋肉に伝わることで実現します.しかし,脳卒中などにより脳からの信号が発生しなかったり,あるいは交通事故などで脊髄損傷を被り発生した信号が末梢神経に伝わらなかったりすると,麻痺となってしまいます.

そこで,FESの登場です.神経に電気刺激を与えると,筋収縮が起こることは有名な現象です.末梢神経さえ正常であれば(興奮性を保持していれば),手足の神経に電気刺激を与えることにより, 麻痺した手足は再び動くのです!現在FESでは,15 - 20分の起立や10 - 15 m の歩行に成功しています.また,文字を書いたり,紙コップで水を飲んだりと,細かな動作の再建にも成功し,今後の発展が期待されています.

刺激方法について

電気刺激用の電極のひとつに表面電極があります.これは家庭用の低周波治療器などでも使われており,広く普及しております.表面電極の最大のメリットは着脱が簡単であることですが,ピリピリとした不快感がある,精度のよい刺激(ピンポイント刺激)が難しい,(筋刺激の場合)疲労が大きいなどのデメリットもあります.

また,精度の良い刺激を可能にするために,経皮電極というものも使われています.これは体外から皮膚を貫通し,刺激したい神経の近くまで電極を伸ばして刺激する電極です.経皮電極は非常に高精度の刺激が可能となりますが,リード線が皮膚を貫通するため,皮膚貫通点(経皮点)における感染症の危険性があります.

直接給電法

当研究室では@表面電極の簡便さA経皮電極の性能を実現するために,"直接給電法"という方式による刺激の実現を目指しています.直接給電法では,図のように刺激したい神経の近くに小さな刺激素子を埋め込みます.埋め込み素子にはエネルギーや信号を受けるコイルと刺激をつくる回路が入っていて,体外から非接触で磁場を与えることにより刺激を行います.(この非接触のエネルギー伝送こそ,当研究室のコア技術です)
 直接給電法では皮膚を貫通する部分がないため,感染症の心配がありません.また,刺激素子を刺激したい神経の近くに埋め込むため,局所刺激ができ,細かな動作再建が可能になります.体内の刺激素子はバッテリーが不要であり,一度刺激素子を埋め込んでしまえば,半永久的に使用できます.これは,TES・FESのみならず,さまざまな電気刺激療法に応用可能です.また,刺激回路を他のセンサ等に置き換えれば,インプラントセンサーなど新たな診断・治療機器の実現にも結び付く技術です. 現在までに,1素子での刺激を生体中で成功させました.今後は臨床応用を目指した装置の開発を行っていきます.

直接給電法(FESの例)