体内埋込機器への電力供給(ワイヤレス皮質脳波計測装置)

体内埋込型医療機器とは,使用者の体内に埋め込まれた状態で稼動し,使用者 の健康を保つ手助けをする装置のことです.代表的なものとしては,心臓ペースメーカーやICD(体内埋込型除細動器),カテーテルを通して血管内に薬物を投与する皮下埋込型ポートなどがあります.

一昔前の体内埋込型機器のバッテリーは寿命が短く,数年ごとに大掛かりな外科手術によってバッテリーの交換を行なっていたため,使用者の体力的・経済的負担が小さくありませんでした.そこで現在は,非接触給電による充電方式の研究が進められています.給電側(体外)の1次コイルに電流を流すと,電磁誘導の法則により,受電側(体内)の2次コイルに電力が供給されます(Fig.1). この原理を利用した給電が行なえれば,バッテリーが切れるたびに手術を行なう必要もありません.

体内埋込型機器へ非接触給電を応用したときの利点として他に,感染症の危険性が少ないことが挙げられます.例えば,体内機器への充電装置が有線で体の外と繋がっていた場合,そのラインと人体との間で何らかの感染症の危険性があります.しかし,完全埋込型の体内機器ならばその心配はありません.

現在本研究室では他大学の医学部や企業と共同で,「体内埋込型ワイヤレス皮質脳波計測装置」用の給電コイルの試作を行っております.「皮質脳波計測装置」とは,てんかんの治療に用いる医療機器です.てんかんとは脳に過剰な放電が生じることによって,けいれんや昏倒などの様々な症状が起こる病気です.非常に重い疾患ですが,現在,効果的な治療法は確立されておりません.しかし,てんかんの症状に応じた脳波の観測が可能となってきました.

この装置はてんかんの症状によって発生する脳波を電極で検知し,その脳波を腹部のデバイスから無線で外部に送信します.信号として脳波を受信した医師は治療が行いやすくなります.本研究室が担当する給電システムはFig.2の腹部デバイスに埋め込まれます.十分な電力を供給し,安定して使用出来るコイルを設計することが本研究の目標です.

Fig.1 電磁誘導による電力伝送
Fig.2 皮質脳波計測装置の概要