プラズマ利用原子内包フラーレン形成機構と物性に関する研究

 

 

1985年に発見されたC60に代表されるフラーレンは,グラファイト,ダイヤモンドに次ぐ第3の炭素同素体であり,その分子形状や電気的・機械的特性から盛んに研究が行われてきた.その中でも、フラーレン内部の真空空間に他原子・分子を閉じ込めた内包フラーレンはスーパーアトムの典型であり,特異な電子状態を有することから注目を集めてきた.特に窒素原子を内包したフラーレン(N@C60)は,内包された窒素原子の電子スピン緩和時間が長いことから量子コンピュータへの応用が期待されている.しかし,従来のN@C60合成法では合成率が最大でも0.01%と極めて低く,実験的な物性の解明などができない状況にある.

本研究ではN@C60を高効率に合成することを目的として,ミラー磁場中ECRElectron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)放電プラズマを用いて実験を行っている(図1).このような高エネルギーとなるプラズマを利用することで,N2ガスを効率的に電離・解離させることができる.成膜基板に対してC60を連続的に堆積させ,そこにプラズマ中のイオンを照射することによって高効率にN@C60が合成される.プラズマイオン照射を行った後の生成物を高速液体クロマトグラフィーにより精製し,マトリックス支援型レーザ脱離飛行時間型質量分析器(MALDI TOF-MS)により分析した結果,N@C60及びN2@C60に相当する質量ピークが得られている(図2).

 

1:実験装置概略図.

 
 

2:生成物のMALDI TOF-MS分析結果.

 

 

 


 

阿部 重幸