溶液中マイクロプラズマ利用新機能性ナノカーボンの創製

 

カーボンナノチューブはその発見以来,多くの研究が精力的に成されている物質の一つである.カーボンナノチューブは内部に原子・分子を内包することで,局所的に電子状態が変化することが分かっている.本研究では内包分子としてDNAに着目し,DNAを内包したカーボンナノチューブの合成を目指した研究を行っている.DNAは直鎖分子であり,塩基の種類により電気特性が異なるため,その塩基配列を制御したDNAを内包することで,カーボンナノチューブの電気特性を連続的に変化させることができ,電子デバイス等への応用が期待できる.そこで,高い制御性を有するプラズマ理工学的手法の一つであるイオン照射法を応用し,予め合成したカーボンナノチューブの終端を開放し,外部からDNAを挿入する方法によるDNA内包カーボンナノチューブ合成及びその評価を行った.

これまで原子・分子内包カーボンナノチューブ合成に実績のある,カーボンナノチューブ塗付基板への気相中プラズマイオン照射法を,DNAが負イオンとして存在する溶液(電解質プラズマ)に適用し,DNA内包カーボンナノチューブ合成を行った.カーボンナノチューブは予め燃焼させ開端処理を行っている.図1に電解質プラズマ装置概念図を示す.1重らせんDNA溶液中にアルニウム基板(アノード,カソード)を導入し,アノードには開端処理したカーボンナノチューブを予め塗付しておく.直流電場(VDC)を印加することで溶液中のDNA負イオンをアノード基板に輸送・照射することが可能となる.また,DNAの内包を効率良く行うために,DNAに対して伸張作用のある高周波電場(VRF)を重畳印加する実験系を初めて開発した.

このようにしてDNAを照射したカーボンナノチューブをラマン散乱分光により評価したところ,カーボンナノチューブの直径方向の伸縮に由来するRadial Breathing ModeRBM)領域においてスペクトル形状に変化が観測された.この現象はカーボンナノチューブと内包したDNA間の相互作用の結果,RBM領域のラマンスペクトルが変化したためと考えられる.図2にDNA照射後のカーボンナノチューブの典型的な透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す.図中挿入図に黒の曲線で模式的に示すように,カーボンナノチューブ内部にDNAが内包している様子がわかる.以上のように,電解質プラズマ中DNA負イオン照射法の開発を独自に行い, DNA内包カーボンナノチューブ合成に初めて成功した.

 

テキスト ボックス:  
図1:電解質プラズマ中イオン照射装置概念図
テキスト ボックス:   
図2:DNA照射後カーボンナノチューブのTEM像.VDC=18 V,VRF= 200V.内包物質は下図に黒線で示してあり,用いたDNAと同等の長さである.

 

 
 



岡田