「官」の代表として、 電子技術総合研究所 エネルギー基礎部 嘉藤 徹氏のご講演

講演テーマ:「固体電解質型燃料電池を中心とした―燃料電池の現状と将来」


  電子技術総合研究所 エネルギー基礎部 嘉藤 徹氏

 
 T.地球環境問題・エネルギー問題の現状と将来見通し

 地球環境問題の深刻化の1つとして、炭酸ガス等による地球温暖化を挙げることができる。CO2排出量が増大した場合、2100年にCO2濃度が数倍になり、それに伴い海面が15cmから100cm上昇し、マーシャル群島、キリバス、モロジブ等の水没が予想されている。この対策として、COP3(京都議定書)がつくられた。先進国全体で10年で5%の排出量削減を約束している。自然エネルギー消費が増大する世界の動向をふまえて、無害な新エネルギー等の導入目標が掲げられている。その中に、太陽光発電、燃料電池がある。

 U.燃料電池開発の現状

 燃料電池の特徴として、高い発電効率、優れた環境性がある(NOx,SOxの排出が少ない)。 燃料電池には、固体高分子型PEFC、固体酸化物型SOFC等がある。

 V.固体電解質型燃料電池(SOFC)

 固体電解質型燃料電池(SOFC) の特徴として、最も高い発電効率、一酸化炭素を燃料として利用可能、がある。SOFCの開発課題として、耐久性の確立、起動特性の改善、コスト低減、がある。世界的には現在、基本的な技術が確立し、100kW級〜220kW級システムの運転試験が行われている。日本では、各企業が数10kW級システムの開発に参加しているところである。

 W.実用化に向けた我々の取り組み

 1.早期実用化のための新市場の可能性(小型システム)

 家庭用コジェネ・電気自動車用など小型システムではPEFCが内燃機関代替として有望視されている。化石燃料の使用を想定した場合、PEFCにはCO被毒対策、水管理技術、コスト低減などの課題があるが、SOFCにはコスト以外の課題はないので小型コジェネあるいは電気自動車用に適用可能ではないかと我々は考えている。小型コジェネ用や電気自動車用の小型SOFCシステムに要求される性能を求めてみると、コスト低減と起動時間の短縮が課題となる。低コスト化、軽量化のため、運転温度の低温化、官の細管化を検討している。性能予測によりSOFCはPEFCシステムの特性と遜色ないことがわかってきた。

 2.石炭利用を想定した統合型燃料供給システムと炭酸ガス回収・固定システム(CO2削減策)

 燃料電池は炭酸ガス回収に適した構造なので、従来型火力発電で炭酸ガス回収をした時と炭酸ガス回収型SOFCと比較すると、効率的にはSOFCでも遜色がない。これを利用して統合型新燃料供給システムと炭酸ガス回収・固定システムを提案している。また、珊瑚礁利用型の石炭・再生可能エネルギー統合型エネルギーシステムを提案している。

 2001年度より電総研は独立行政法人の産総研に生まれかわる。地球環境問題はますます重要となっているが、COPS3やISO14001等にどの程度、科学・技術が貢献したかははなはだ疑問である。今までの科学者・技術者は科学技術だけを考えれば良かったが、今後は社会的コンセンサス造りまでする必要がある。これをやりやすいのはたぶん官の研究者と思う。今後は、技術的裏付けを持った社会的枠組みの提案も進めて行くべきだと考えている。