日本超音波医学会

10回東北地方会講習会

(第32回学術集会併設)のお知らせ

 

10回東北地方会講習会(第32回学術集会併設)を下記の日程で開催いたします.ご出席頂いた超音波専門医,工学フェロー,超音波検査士の方には,5単位の研修・業績単位が与えられます.

 

開催日時: 平成18924()(午後1時20分から410)

会  場: 秋田県総合保健センター  秋田市千秋久保田町6-6  TEL: 018-831-2011

題  目: (1) 「超音波治療の現状」 13:20-14:20

       講師 立花 克朗先生(福岡大学解剖学教室)

(2) 「乳腺超音波診断」 14:30-15:30

  講師 辻本 文雄先生(聖マリアンナ医科大学)

(3) 「もれの無い「肝胆膵脾」観察のための走査のポイント」 15:40-16:10

       講師 榎 真美子先生(秋田赤十字病院)

 

: 1,000 (学術集会参加費とは別途徴収いたします)

定員:制限はありません

弁当販売:本地方会におきましてランチョンセミナーも予定しております.是非そちらをご聴講頂けますようよろしくお願いいたします.

 

010-1495 秋田市上北手猿田字苗代沢222-1

秋田赤十字病院消化器科 小松田智也

TEL: 018-829-5000  FAX: 018-829-5255

E-mail: koma@archosp-1998.com

 



講習会講演-1    13:20-14:20 

                     座長   岡田 恭司(秋田大学整形外科)

                          花岡 明彦(日立medico)

 

「超音波治療の現状」

   講師   福岡大学医学部解剖学教室  立花 克郎先生

 

超音波の治療への応用は50年以上の長い歴史をもちながら診断領域ほどの脚光を浴びることはなかった.しかし,最近になり,超音波治療の研究が活発になり,その大きな可能性を指摘する者も多くなってきた.超音波エネルギーによって生体内に熱を発生させられることは古くから知られていたが,近年,エコー,CTMRIなどの画像診断技術が飛躍的に進み,リアルタイムで体内の様子を観察しながら,超音波を数ミリ単位の正確さで患部に照射し,癌を熱でAblateすることができる(強力集束超音波治療,HIFU).前立腺癌などで臨床応用されている.一方,1990年代に入り,超音波エネルギーの非温 熱効果と薬物を併用する全く新しい“超音波・薬物効果促進作用が発見され,超音波治療の可能性がさらに拡大された.近年,超音波による色々な薬物の効果促進作用が報告され,薬物の投与量のコントロールの目的で超音波エネルギーを利用した治療装置がいくつか米国FDAに認可された.超音波非温熱エネルギーはさまざまな生体組織で薬物の吸収を促進させる働きがあることから,血栓溶解療法をはじめ,薬物経皮吸収投与,血管治療,癌化学療法など様々な分野へと広がりを見せている.これらの応用方法の中で現在もっと注目されている新しい技術が超音波遺伝子導入法である.診断用超音波造影剤(マイクロバブル)と超音波を併用することで細胞内へ遺伝子を容易に導入できることが発見され,分子生物研究における超音波遺伝子導入法の応用が期待されている.機械メーカーのみならず製薬会社やバイオテクノロジー市場でこの技術の今後の進展が注目されている.

 


講習会講演-2    14:30:-15:30

                    座長  棚橋 善克(棚橋よしかつ+泌尿器科)

                        久保田政昭(明和会中道病院生理検査)

 

「乳腺超音波診断」

   講師   聖マリアンナ医科大学病院超音波センター  辻本 文雄先生

 

−超音波検査は簡便だが,簡単・容易ではない.あなたはよく間違いを犯していないか.では,なぜ間違えるのか.−

 

 乳房の画像診断のfirst choiceとしてマンモグラフィー(MMG)と超音波検査(US)が多くの施設で行われている.乳房の画像診断法には,他にCTMRI,乳管造影などがあるが,簡便性,経済性,低浸襲性の観点からは,検診のみならず,一般の外来でも,MMGUSが行われる.当院では,まず視野の広いMMGを撮影し,その後,USを行う.USを行った時点で気づく事は,日本人の乳腺はいわゆるdense breastが多く,USで容易に検出される乳癌がMMGでは白い乳腺実質の中に隠れ,まったく描出できないことがしばしばあるということである.乳癌検診では,現在,視・触診のみの検診は有効性がないと否定され,MMGを追加することが推奨されている.しかしながら,USを検診に導入すべきであると述べれば事が済むわけでなく,USは非常に困難な問題を含んでいる.MMGが検診に何故,推奨されてきたのか.それは広い視野と腫瘤を触知しない乳癌でも微細石灰巣を描出できるからであり,その多くは非浸潤性乳管癌(DCIS)である.USは腫瘤像を認めない場合,癌の診断は困難と言われているが,実はDCISを念頭に置いた乳管に沿った走査を行えば,その9割方は腫瘤像として検出できるのであり,DCISの発生頻度が高い都会で全乳がんの10%程度であることより,乳がんの99%は検出可能なのである.USで腫瘤像を検出した場合,腫瘤の内部構造を観察することができ,良・悪性の鑑別のみならず,病理組織像まで推測することが可能である.充実性乳腺は高エコーであり,ほとんどの乳癌は低エコー腫瘤としてコントラストよく明瞭に描出される.この多くは浸潤癌であり,径5mm程度のものも検出される.腫瘤像の描出に関しては,MMGはまったくUSに及ばない.

 検診でMMGが用いられる最大の理由はその再現性にある.USは検者の技量により著しくその結果が左右される.視野が狭いため検者が十分注意して全乳腺を走査せねばならない.しかし,全てを走査できたとしても検者が病変を見逃した場合,撮像された写真には何も残っていない.リアルタイムで行う検査であり,通常,検診で行われるはずのダブル・チェックを行いようもない.多分,これが検診でUSが回避されている最大の理由と考える.勿論,MMGも同様に検者の技量が劣れば,乳房の圧迫が不十分で撮像された写真内に腫瘤が存在しないとか,被検者に与える痛みが強く検査が不十分であったりすることもあるが,USの場合はこの比ではない.USは検者の技量によりその診断能が著しく左右されるため,将来どのように教育を進めていくかが課題となっている.MMGは医師が形態分析により読影・診断するが,USは医師,技師にかかわらず,まず病変を描出し,その後,形態分析により診断し,記録を撮る.従って,診断せずに記録を撮っても,それを後から医師が2次読影することは難しく,病変が描出されていない事もありえる.病変を描出する手技としては,「動体視力」と「直観像」が必要と思われる.スキャンされた一瞬の断層像の中で,視点を1点に絞るのでなく,同時に全てを見ることが出来れば見落としはなくなる.しかし,直観像は先天的なものと言われている.私は,1断面の全てを同時に見るように自己訓練して少しばかり直観像を認識できたので,人により多寡はあるものの,ある程度は訓練することにより身につくものと考える.多数の件数を短期間に経験することが診断能を向上させるために重要である.今後はどのような施設で,どのように教育を行うかが,まず,第一の課題であり,継続して教育が受けられることが必須である.当超音波センターも教育施設として乳房画像診断に深く関わっていきたいと考える.

 


講習会講演-3    15:40-16:10

                    座長   石川 洋子(松園第二病院消化器科)

                         沼田 功 (古川市立病院泌尿器科)

 

「もれのない「肝胆膵脾」観察のための走査のポイント」

   講師   秋田赤十字病院消化器科  榎 真美子先生

 

この講演では,「肝胆膵脾」観察のため,いくつかの走査のポイントを動画を用い簡単に解説します.

A)

1)肝総論: 肝の観察は,a)肋弓下横−斜走査b)肋弓下縦走査c)肋間斜走査の3方向を組み合わせてなされることが多いが,これらの走査法は等価値ではなく,区域や部位により得手不得手があります.また痩せた女性に対しては,左上腹部肋間斜走査を加え,脾近傍まで伸びた肝左葉外側区左端まできちんと抑える必要もあります.

2)肝各論a)肝尾状葉(S1): 超音波診断上注意すべきは,前方の構造に起因するアーチファクトである.門脈臍部後方の音響増加効果と静脈索による超音波の減衰が複雑に混じり合い尾状葉のエコー輝度が不均一になることがある.この現象は,通常尾状葉の観察に最も利用される肋弓下横−斜走査で明瞭になりやすい.やはり異常の有無の判定は肋弓下縦走査も加え正確にすべきである.

肝各論b)肝左葉外側区(S23):前述の左端を除くと心窩部走査が中心となる.脈管の連続性を確認するには横走査が適しているが,この断面は心拍動に伴う揺れのため,さらに腹直筋による超音波の屈折のため,実質エコーや辺縁の評価,小腫瘤の拾い上げには不向きで,これらの目的には縦走査が適している.その多数の平行断面を頭のなかで組み合わせ,外側区全体の立体的把握をしましょう.しかし縦断面は心拍動や呼吸相で動き形状も大きく変化するため注意も必要です.この動きも単なる頭側−尾側の平行運動ではなく,これにアリマジロ様回転運動が加わります.

3)肝各論c)肝左葉内側区(S4):教科書に記載されている肋弓下横ー斜走査のみでは,巨大なこの区域全体の観察は到底不可能でこれに,1)肋弓下縦走査と2)(下記の)肋間横走査2方向を組み合わせて対応しています.肋弓下縦走査でプローブを心方向に強くあおるとドーム部まで良く見えます.ところで,肋間横走査は普段あまり行われていませんので,簡単にご説明します.肋間走査は通常肋間のすきま方向に沿った斜走査に終始しがちですが,もし視野の両脇が浮くことを厭わないなら,この断面と異なる多数断面の設定も十分可能なはずです.その一つの試みが肋間横走査です.この位置に置いたプローブを(船頭がかいを漕ぐように)上下させることで門脈左枝水平部近傍の肝左葉内側区が細かく観察可能です.

4)肝各論d)肝右葉前区(S58):この区域は右肋間走査で一番観察しやすい区域です.プローブで肋間を広げながら少し圧迫しましょう.像がより鮮明になります.さらに,プローブをあまり肺側に移動させず,むしろ引き気味にした方が,肺内ガスの影響を受けず,ドーム近傍が良く見えます.なお,肝実質パターンを評価するにはこの右葉前区が適しています.

5)肝各論e)肝右葉後区(S67):この区域に関しては,体型により走査戦術を変える必要があります.通常の体型の場合,肋弓下横−斜走査を中心に走査します.それは,肋間走査ではどうしても肋骨との重なりのため,辺縁が描出出来ないからです.具体的には,肋弓下横−斜走査で(シャベルで砂を掘り返す要領で),プローブで肝を押し付けながら上下させ区域全体を観察します.特に前述の辺縁(キワ)には細心の注意を.一方,肥満体型の場合,肋弓下横−斜走査からは肝右葉後区はほとんど見えません.それは,腹腔内の脂肪のため肝が上方(頭側)に持ち上がりこの走査では脂肪と腸管ガスが肝観察を邪魔するからです.この場合は戦術を肋間走査の観察に切り替えます.この場合,ドーム近傍を観察するためには,プローブ設置点は固定しつつ,プローブで肋間を広げながら肋間を少し圧迫しましょう.このわずか圧迫でドーム近傍が鮮明に描出されます.なお,この場合も辺縁のチェックは肋間横走査で切り抜けましょう.ただどうしても肋間走査でないと右葉が観察出来ない場合は,プローブで肋間を少し押しつけ視野の両端が欠損にならないようにする工夫が必要です.

B)胆道系,明らかに走査法も読影法も異なる胆嚢と肝外胆管を別個に述べる.

a)胆嚢: “最も走査が簡単な臓器”と思われがちな胆嚢であるが,実は超音波による見落としが意外に多い臓器である.その見落としは底部と頚部−胆嚢管,という2ヵ所の集中している.肋間走査で描出される胆嚢は胆嚢全体ではなくほとんど体部のみである.その他の部位を万遍なく描出するには肋弓下からの(アッパーカット気味の)仰ぎ走査の併用が必要となる.具体的には,頚部−胆嚢管に関しては,右上腹部肋弓下に当てたプローブを(蝶の羽根のはばたき様に)小刻みに左右に振ることで観察可能である.底部に関しては,ほぼ同じ位置で,プローブで腹壁を圧迫し近傍の十二指腸のガスを払ながら,プローブと底部との距離を調節することで観察可能である.

b)肝外胆管: 肝外胆管は膵上縁を境に走査手順を変え観察することをお勧めします.膵より上方の部分(上部胆管,中部胆管)は一般に門脈の腹側やや右寄りを門脈に併走することから,門脈を指標に観察面を設定するのが現実的である.しかし,膵内を走向する下部胆管は,外背側に(逆くの字に)屈曲し,その屈曲の状態は個人差が大きいため,この部をもれなく観察するためには,膵の長軸断面(およびその平行断面)に現われる胆管の短軸面を,プローブを平行移動させながら,連続的に観察し,その全体像を頭の中で再構築するのが最も現実的である.

C)

1)膵総論: 解剖学的位置関係から,膵全体を明瞭に描出するには,周囲の消化管ガスを避ける技術,が絶対的に必要となります.ガスを避ける(追い払う)技術として,座位や半座位を勧めている本もあるが,被検者の腕にかかる負担が大きく頻用すべき方法ではない.我々は,a)心窩部をプローブで軽く圧迫しながら手首を回転させる(回外運動です)b)心窩部をプローブで軽く圧迫しながら手首を上下運動させる(背屈運動です)c)プローブを臍上部まで下げて,そこから遥か上方の膵を仰ぎ見る(この手法は胃切除例に対し特に有効),などの小業の組み合わせで対処しています.各施設の超音波検査のベテランはそれなりの秘技があるはずです.それを学んでください.いずれにしても力だけで押し切るのは全く感心しません.

2)膵各論:膵に関しても端(すみ)を押さえないと大きなミスにつながります.両端の鈎部と尾部がそれです.鈎部はの通常の頭部より尾部に伸びた突起部で,通常の長軸断面ではこの部を観察できない.鈎部をチェックするには,さらに,プローブを尾側に移動させなくてはならない.一方,尾部の最左端は脾門部に接しているため,尾部の観察には通常膵を観察する上腹部横走査ではなく経脾的アプローチが適している.

D)脾は腹部超音波検査の舞台で,主役を張ることはないが,種々の病的状態発見の手がかりを示唆してくれる名脇役です.興味を持って検査して下さい.著明な脾腫例を除くと,脾は通常左上腹部肋間から観察します.観察項目は,脾の形状,径,内部の実質エコーパターン,腫瘤の有無,などですが,そのためには,脾全体を自分の手で描出する必要があります.まずコンベックスプローブを左肋間に置いて脾の描出を試みて下さい.ただ漫然とプローブを置いただけでは,脾の一部(下極)1しか見えないことが多いです.では,次にどんな工夫をしたらいいでしょう?第一段: プローブを肋間に沿わせて静かに上下に平行移動させましょう.どの点で脾の見通しが一番良くなるか,目でチェックしましょう.第二段: 次に,そのプローブ設置点は固定したまま,被検者に静かに規則的に呼吸させましょう.どの呼吸相で脾の描出が最良となるか,目で判定しましょう.第三段: これまでの操作で最適の観察条件が定まったなら,最後に,そのプローブ設置点は保持したまま,プローブで肋間を広げるようにプローブを回転させながら2,プローブで肋間を少し圧迫しましょう.この1度の回転と1mmの圧迫が超音波検査の隠し味です.脾の鮮明度が格段に向上します.このビフォー,アフターの差を実感すると超音波検査が大好きになります.以上の第一段から第三段の手順を手際良く各肋間で繰り返すと,脾全体の描出が短時間に可能です.