無線通信用伝送路の制御デバイス
高周波電界まで異方性を有する液晶は、表示や撮像などの光画像情報の入出力のみならず、無線通信用デバイスにも応用可能です。バイアス電圧で制御可能な液晶配向の誘電率異方性を用いれば、電波の感じる誘電率、すなわち位相を制御できます。ここでは、次世代無線通信ネットワークを高度化するため、液晶を用いたアンテナ指向性制御用移相器や、反射波パターンを自在に変えられる可変反射板(リフレクトアレイ)の研究開発を進めています。

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液晶の配向変化を用いた高周波移相の変調原理
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● 無線通信用のアンテナ指向性の制御
大容量の無線ネットワークの発達に伴って高周波数の無線伝送が使用されるようになると、減衰を低減するため、アンテナの指向性を鋭く必要があります。液晶は光だけでなく、マイクロ波に対しても誘電率異方性を有するため、液晶分子の配向を電圧制御することにより、透過する電磁波の位相を変えられます。そのため、次世代移動通信システム(5G以降)や衛星通信に用いるフェイズドアレーアンテナの指向性を自在に制御できます。ここでは、挿入損失を少なくするとともに、効率的に位相変調できるデバイス構造や液晶材料について検討を進めています。
(本学通信工学専攻 陳研究室と連携)
[国際会議IDW Outstanding Poster Paper Award (2019)]
[映像情報メディア学会情報ディスプレイ研究会学生奨励賞(2020)]

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液晶を用いて試作したミアンダ・スロット型可変移相器
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● リフレクトアレイによる伝送経路の制御
周波数が高い5G 通信以降で使われるミリ波帯域では、障害物による電波回折が生じにくいため、ビル影などの見通し外通信障害で通信途絶が頻発します。通信のロバスト性を高めるため、アンテナからのミリ波ビームを反射させて、ビル影の移動端末に向けるため、可変反射板(液晶リフレクトアレイ)の研究に着手しています。高周波で求められる厚膜液晶でも、高速応答が得られる素子構造を探求しています。

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液晶を用いたリフレクトアレイの役割
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● 高周波用の液晶材料の探索
ミリ波における液晶の誘電体損失を低減するため、液晶分子の基本的化学結合基を系統的に変える方法で、分子構造の設計指針を探求しています。
これまで様々な液晶材料の誘電正接の測定により、低損失化のためは、配向した液晶分子の振動・回転や分子分極を抑制することが必要との知見を得ています。
● 配向高分子フィルムの挿入による液晶の応答高速化
厚膜液晶の立下り応答の高速化のため、液晶層に配向高分子フィルムを挿入して液晶層を分割した素子構造の検討を進めています。これまで、液晶性モノマーを用いた配向高分子フィルムを作製するとともに、その高分子フィルムが液晶に配向効果を及ぼすことを確認しています。
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