① なぜ,地方の人口が減少して大都市圏に人口が集中し,地方の経済は衰退していくのでしょうか。
戦後の高度経済成長期の時代,大都市圏にある製造業などの大企業を中心として労働需要が拡大し,地方は労働力の供給源となり,日本の高度経済成長を支えてきました。その後,1970年代のオイルショックに伴う低成長期の時代には一時的に地方から大都市圏への人口流出は抑制されましたが,今日に至るまで人口流出に伴う地方の人口減少に歯止めが効かなくなっています。
では,なぜ,若者や30歳から40歳代の働き盛り世代が大都市圏に転出してしまうのでしょうか。20歳前後の若者であれば進学先の大学などが大都市圏に集中しているために転出せざるを得ない若者も少なくありません。また,30歳から40歳代の働き盛り世代は,就業機会と高収入を求めて大都市圏に定住してしまう傾向があります。彼(女)らは,子育て世代でもありますから,地方の人口減少の傾向にますます拍車がかかることになります。
では,なぜ,大都市圏に就業機会が豊富で収入も高くなる傾向があるのでしょうか。20世紀の工業化社会においては,大都市圏の大手製造業の周囲には様々な原材料や部品などを提供する関連会社や関係(取引)会社が立地して様々な産業の企業が集積します。企業が集積することによって,部品や製品の輸送コストが節約され,情報共有の頻度や密度も高まるメリットがあります。また,今日の日本経済は第3次産業と呼ばれるITや情報通信などのサービス産業に従事する人口の割合が増えていますが,こうした産業も地方よりも人口が密集する大都市圏に集中してしまいます。そして,こうした産業の労働生産性は高く,それだけ雇用者の収入も高い傾向にあります。
一方,多くの地方では,以前は即時的な就業機会の拡大をもたらす工場誘致に取り組んできましたが,20世紀末からのグローバル経済化に伴い,多くの地方工場は海外に移転しました。また,地方では,飲食店や理髪店などに代表される接客サービスなどのサービス産業従事者が約2/3を占め,相対的に労働生産性が低く収入も低くなる傾向があります。こうした産業は,生産性を向上させる余地は乏しく,地域外からの付加価値を取り込めない地域循環型経済を構成しており,地域の人口減少は消費活動の減少に直結しています。その結果,地域の人口減少は,地域経済の縮小にますます拍車をかけて悪循環を形成しています。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:藤本雅彦(東北大学大学院経済学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
準備中です。
② 現在の傾向を止めるためには,いかなる方策が有効と考えられでしょうか。
東北地方に限らず全国の地方に共通する最大の社会課題は,人口減少と地域経済の縮小の克服です。こうした課題に対する近年の政府の政策の柱は,第二次安倍内閣の発足直後に打ち出された「地方創成」に関するビジョンと戦略です。
第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2015年度~2019年度)によれば,東京一極集中を是正して地方への移住を推進し,地方に安定した雇用を創出することなどが盛り込まれました。しかし,2020年の現時点で,地方への移住による転入は,転出を上回ることができず,依然として地方からの転出超過が続いています。また,地方において十分に安定した雇用が創出されたとは言えません。そこで,第2期(2020年度~2024年度)の総合戦略では,地方に移住したり観光などで交流したりするだけでなく,地域の人々と多様に関わる「関係人口」の創出や拡大が盛り込まれています。
しかしながら,こうした地方の人口減少という課題を克服するためには,地方に定住を希望する30代から40代の働き盛りの世代を中心に「付加価値の高い仕事」による高収入の就業機会を提供することが最も重要ではないかと思われます。そこで,これまでにも地域企業に対する各種補助金などの様々な施策が為されてきましたが,地方で付加価値の高い新規事業を発展させて就業機会を創出し拡大できるか否かは,究極的には地域企業の経営者の手腕次第なのです。
大都市圏などの大手企業を中心とした産業集積地では,経験的に優れたマネジメント能力を習得した中堅社員などがスピンアウトして新規事業を起業するケースが少なくありません。彼らは起業後も豊富な人的ネットワークを活用してお互いに切磋琢磨しながら手腕を磨きながら発揮しています。しかし,地方では,こうしたインキュベーション(ふ卵器)のような役割を果たしている大手企業などは限られています。また,優れたマネジメント手腕を発揮する経営者同士の接触の機会も限られています。
そこで,従来のような工場の誘致ではなく,将来性のある起業家を地方に誘致したり地元の中小企業経営者を育成したりし続けることが重要でしょう。また,各地方においてこうした経営者同士が連携したり切磋琢磨したりするような機会を提供する経営者ネットワークを醸成することも重要ではないでしょうか。
しかしながら,こうした支援政策には雇用機会の創出や拡大に関して即効性がありません。これまでのような短期的な成果が問われる政策とは次元を別にして,極めて長期的で継続的な支援政策として扱うべきです。明治維新の直後,「国家百年の計は教育にあり」として義務教育を推進したことが,その後の日本の発展に大きく貢献したことを再認識すべきではないでしょうか。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:藤本雅彦(東北大学大学院経済学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
準備中です。