「はやぶさ」に与える光圧の影響

@「はやぶさ」は20km付近(ゲートポジション)到着後から、その位置を制御してきました。この間、もっとも大きく位置制御に影響を与えているのが、光の圧力(光圧)で、太陽から飛んでくる光子(Photon)が太陽電池パネルやアンテナなど探査機の表面に衝突して発生する力で、この力はとても弱く大きさはだいたい電気推進の1/100ですが、ゲートポジションで受けるイトカワの重力に比べると10倍以上の大きさがあります。太陽、探査機、イトカワの位置関係は図1のようになっており、接近する方向への移動時にはガスジェットを使わずに太陽輻射圧で近づいていき、それ以外の方向には搭載している推進エンジン(ガスジェット)を噴いて位置を制御しています。はやぶさとイトカワの距離関係を図2に示します。

 

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図1 太陽、はやぶさ、イトカワの位置関係

 

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図2 縦軸は「イトカワ」表面からの相対距離(単位:km)で、横軸は日付(世界時)です。

 

Aグラフはきれいな放物線を描いていて、「はやぶさ」が「イトカワ」の方に向かってほぼ一定の力を受けながら運動していることがわかります。「はやぶさ」は9月19日と26日に、「イトカワ」から飛び上がる方向にガスジェットをちょっと噴射して距離を調節していますが、その間は推力を使っていません。真空の宇宙空間で「はやぶさ」に放物運動をさせている力こそが光圧です。

 

B落下の加速度を求めてみる。

図1の位置関係が成り立っているとし、図2のグラフから代表的な高さを読み取ります。放物線の両端と頂点を選び、このうち9/19の位置を原点として鉛直上方にy軸をとることにし、データを下の表のように整理します。

等加速度運動の位置の式から次の関係が成り立ちます。

ここにaは落下の加速度、Vはt=0 すなわち9/19の上昇速度を初速度と見たものです。

 

これらをaV について解くと、次式が得られます。

の数値を代入して計算すると、以下の数値が求まります。

 

この結果から、「はやぶさ」が宇宙空間で受けている力は、地球の重力(重力加速度は の約8千万分の1程度(9.8÷a≒754000000)の微弱な力であること、「イトカワ」に対して、秒速数cm程度の極めてゆっくりした相対速度で運動していることがわかります。「はやぶさ」の質量は約500kg ですから、運動方程式F=maを使って力Fを求めると、約 すなわち、6.5 マイクログラム重という微弱な力です。一粒のほこりを持ち上げるほどの力でしかありません。しかし、真空・無重力の世界では長時間この力を受け続けているうちにじわじわと速度や軌道が変わっていくのです。「はやぶさ」はこの力を「イトカワ」への接近に利用し、推進剤を節約しています。このように衛星の軌道を効率よく(エネルギーをなるべくつかわず)かえるのにも光圧は利用されます。

 

参考

http://www2.hamajima.co.jp/~tenjin/labo/hayabusa.pdf

http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/index.shtml