プラズマ推進
1、
プラズマとは?
2、
磁気セイル
太陽光推進の一種
3、
磁気プラズマセイル
4、
プラズマ推進 → プラズマ核融合の紹介
1、プラズマとは?
・プラズマ (plasma) は一般には電離した気体のことを指す。通常の気体を構成する中性分子が電離し、正の電荷をもつイオンと負の電荷をもつ電子とに別れて自由に飛び回っている、全体として電気的に中性な物質である。しかし、構成粒子が電荷をもつため、粒子運動がそれ自身のつくり出す電磁場と相互作用を及ぼしあうことにより、通常の分子からなる気体とは大きく異なった性質をもつ。そのためプラズマは物質の三態、すなわち固体・液体・気体とは異なった、物質の第四態といわれる。
プラズマの要件
・プラズマはイオンと電子との混合物で電気的に中性な物質であるが、それが真にプラズマらしく振る舞うには次の3つの要件を満足しなければならない。
A
,その物質系の大きさ
L が*デバイの長さ λD より充分大きくなければならない。 すなわち L ≫ λD。
B,
考えている現象の時間スケール
t が*プラズマ振動の周期よりも長くなければならない。 すなわち t ≧ 1/ωpe。
C,
粒子の衝突頻度 νc がプラズマ振動数 ωpe よりも充分小さい。 すなわちプラズマ中の電子を主体とする現象では粒子間の衝突は無視でき、プラズマは無衝突とみなせる。
*デバイの長さ λDはプラズマ中で電場が遮蔽される現象(デバイ遮蔽)の特徴的な長さであり、λDより小さい領域では電気的中性が保証されない。 従って、考えている物質系がプラズマとして振る舞うためには、その空間的大きさ
L がλDよりも充分に大きくなくてはならない。
*プラズマ振動数 ωpeはプラズマ(電子)振動数の固有振動数で、そ
の逆数 1/ωpe は電気的中性が破れたとき、電子がそれに反応して中性を取り戻すに必要な時間を表す(わかりやすくいえば振動数の逆数なので振動の周期)。 そこでこれより短い時間内では電気的中性が保証されず、プラズマらしく振る舞わない。 従って、イオンと電子との混合物がプラズマとして振る舞うためには、考えている現象の時間スケール
t が要件B を満たして充分に大きいことが必要である。
2 磁気セイル(MagSaik)
磁気セイルの推進原理
物体を一様流の中を置くと、流れが抵抗を受けて減速される。この時、作用・反作用の法則より物体にも相応する力が働くことになる、帆船の場合はこの力を推力として利用する。宇宙空間に作られた磁場が壁の役割を果たし、太陽風が減速されることで失われた運動量が探査機に伝わる(Fig.@)。この理論が磁気セイルの基本概念である。
Fig@-磁気セイルの原理
但し、正確には磁場と固体壁を同一視することはできなぐ、電磁気学的な考え方も導入しなければならない。固体壁の場合、流れの作る圧力分布が直接固体壁面に作用することで、力が発生すると考えられている。一方、磁気セイルの場合、圧力分布が磁場と太陽風プラズマ流れの間に存在する磁気圏境界と呼ばれる境界面に作用することで、相応する境界面電流が流れる。この誘導電流によって誘起された磁場がコイル電流との間で j X Bのローレンツカを発生させるが、コイル中心から見て前方(昼側)と後方(夜側)ではコイル電流の向きが反対となるので、互いに逆向きのローレンツカが発生することが分かる (Fig.A)。 しかし、前方コイル電流の方が磁気圏境界電流に接近していることを考慮に入れれば、前方コイルの位置に誘起される磁場が後方よりも大きくなり、ローレンツカの大小関係は以下のように書ける。
従って、磁気セイルは必ず太陽から遠ざかる方向、つまり太陽風と同じ方向に力を受けることになる。そしてこれが推力となる。
しかし、この原理で推力をえるには直径数10kmにもおよぶコイルを必要とするので、それを克服しようと考案されたものが、次の磁気プラズマセイルである。
FigA-磁気セイルにはたらく力
3 磁気プラズマセイル(Mini-Magnetospheric Plasma
Propulsion : M2P2 ,
またはMagneto Plasma Sail : MPS)
推進原理は基本的に磁気セイルと同じで、超伝導コイルにより磁気圏を形成し、太陽風のエネルギーを宇宙船の推進エネルギーに変えるもので、但し、磁気セイルでは、直径数10kmにもおよぶコイルを必要とするが、磁気プラズマセイルはこの欠点をなくすため、プラズマによる磁場展開を目指したものである。
磁場展開の原理としては、簡単な定性的な説明のみだが、
温度の高いプラズマの抵抗率は低く、場合によっては、完全導体と見做してよい場合がある。このときプラズマ中の磁力線はプラズマに“凍結”してしまう傾向にある。つまり、磁力線はプラズマとともに動くことができ、これを応用すれば、磁気セイルのように巨大なコイルで磁場を展開しなくとも、小さな磁場をプラズマで広範囲に展開できるので、巨大なコイルを必要としない。
4 プラズマ推進
ここでは、プラズマを利用して大きなエネルギーを生み出すプラズマ熱核融合を紹介する。
核融合で取り扱うプラズマの温度は,数千万゜C〜数値゜C以上の超高温プラズマを対象とする。このような非常に高温なプラズマは,この地球上にあるどのような金属も融かしてしまうので,プラズマを閉じ込めておく容器を金属で作ることができない。そのため主にプラズマ核融合では、磁場閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式などによりプラズマをエネルギーに変換する。
・反応式
核融合炉の燃料には重水素(D),三重水素(Tリヽリチウム)をプラズマ状態にして磁場の空間に閉じ込めておき,このプラズマにさらに大きなエネルギーを加えて原子核同士を融合させる。この融合反応を多く起こさせることができれば,加えたエネルギーよりもはるかに大きい融合反応時に発生するエネルギーを得ることができる。核融合反応は水素のように軽い原子核がヘリウムなどの質量の重い原子核に変換する過程で生成されるエネルギーを利用するものである。重水素(D)と三重水素(T)の反応式は次のように表される。
D十T→He十n十17.6 [Mev]
ここでnは中性子(neutron)である。
この反応式の意味はfigBに示すように,DとTの核融合反応の結果He
と中性子が生じ,17.6Mevの反応エネルギーが粒子の運動エネルギーとして放出されるということである。 (下図)
FigB-反応式
原料となる重水素は、1リットルの海水中におよそ0,034g含まれているが、これが熱核融合エネルギーに変換されると、約285リットルの石油エネルギーに相当する。(水素はこの他の反応の仕方もありまた、核融合では主に軽殻の原子である、水素、ヘリウム、リチウムなどが利用できる。)
・磁場閉じ込め方式
Fig-Cはトロイダル放電の原理図である。プラズマがちょうど変圧器における2次側の負荷に相当する。1次側につながれたコンデンサバンクの電源からエネルギーが供給される。真空容器の放電管の容器内にはあらかじめ電子銃などによる初期電子またはECRによる初期プラズマを作っておくと効率的にプラズマの生成が可能となる。プラズマが容器壁に触れないように、磁力線が織りなすトーラス状(多数のリングを組み合わせた形)の安定な磁気面を用いてプラズマを閉じ込め,高温,高密度のプラズマが得られるようにする。(この他にも様々な方式の磁場閉じ込め方式がある)
FigC-トロイダル放電の原理図
・慣性閉じ込め方式
レーザー核融合に代表される慣性閉じ込め核融合では,プラズマを平衡状態に保つことなく,動的なプラズマの中できわめて短い時間の間に核融合を終えてしまう.レーザー核融合のシナリオを図2.4に示す.核融合燃料を充填した直径5mmほどのプラスチック球に高強度のレーザーを照射する.レーザーの強度は W/cm2 程度である.100Wの白熱球の表面で10W/cm2程度であることからも、いかに高強度かがわかる.
このような強度のレーザーをプラスチック球に当てると,レーザーの電場で電離し,プラズマが生成される.さらにプラズマ中の電子がイオンとの衝突を介してレーザーのエネルギーを吸収し,1 kev 以上の温度のプラズマができる.このプラズマは外方の真空中に音速程度の速度で噴射し,その反作用で燃料球の中に強い衝撃波ができ,球殼は中心に向かって加速される(FigD参照).
中心で燃料殼が衝突した際,高密度(固体密度の1000倍(200g/cm3)以上)で核融合点火温度10 kev の爆縮された燃料球核が形成される.この燃料は慣性力により飛び散るのに有限の時間を要する.この時間が慣性による閉じ込め時間であり,ナノ秒(秒)より短い.しかし,密度がきわめて高いことから核反応時間もこの時間より短くなり,十分な核反応が起こる.このような過程を1秒間に10回程度繰り返し,核融合エネルギーを定常的な電気エネルギーに変換しようというものが慣性核融合発電である.ただし,上記のシナリオの物理過程が球対称を保ちながら進行するかどうかという,爆縮のダイナミックスの安定性の問題が重要な研究課題となる.
FigD-慣性閉じ込め方式の原理
参考文献など
はじめてのプラズマ技術(飯島徹穂・近藤信一・青山隆司 著) 工業調査会
現代のプラズマ工学(提井信力 著) 講談社
さまざまなプラズマ(高部英明 著) 岩波書店
プラズマ理工学入門(高村秀一 著) 森北出版
資料など
宇宙航空研究開発機構研究開発報告「磁気プラズマセイルの推力発生メカニズムの解明」(舟木一幸・山川宏 編)
ISAS RESEARCH NOTE「磁気セイルの地上シュミレーション実験(小嶋秀典・舟木一幸・山川宏・清水幸夫 編)
HPなど
http://art.aees.kyushu-u.ac.jp/research/index-j.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%9E