2007年12月のCOP13では,2050年までに世界のCO2排出の半減に加え,2007年以降10~15年をピークに世界全体の排出量を減少に転じさせること,先進国には2020年までに1990年比で25~40%削減することを求めていました。しかし,2019年に至るまで世界のCO2の排出量は,減少に転じておらず,COP13の求めたレベルの対策は進んでいません。対策が遅れたことによって,2018年10月の「1.5℃特別報告書」では,より大幅な削減を行うことの必要性が強調されています。
企業や政府の責任と同時に,気候変動問題では社会の一員である一般の人々(市民)一人一人の積極的な関わりや意識が問われます。しかし,社会一般の人々にとっては,気候変動(気候変化)を「自分に直結する問題」として想像できているとは言えない状況にあります。どうしたら社会一般の人々が地球環境問題を「自分の問題」として感じることができるかようにするかがA0:環境価値学の主要な目的の一つです。
① 夏の暑さ,水害の多さなど異常さは社会も実感を持ち始めていますが,そのあと厳冬が来れば,その実感も消えてしまいます。「気候変動(気候変化)とはどういうもの」で,なぜ深刻だと言われるのでしょうか。現状程度の努力の状況では将来どのような問題が身の回りに生じるのでしょうか。
様々なシナリオ設定で将来予測がされていますが,どのような問題が生じるかを正確に予測して説得力をもって示すことは極めて難しい。しかしながら,気候変化によって生じる自然災害や農林水産業への劇的な影響,それによる多くの産業へのインパクトが小さくないことは確かです。このことは,我々の普段の生活にも大きな影響を与え,地球・自然からの資源等の恩恵の受け方が極端に変わることで富裕と貧困の格差を助長し,紛争にも発展する危険もあります。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉岡敏明(東北大学大学院環境科学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
準備中です。
② 「地球の平均表面温度の上昇を,18世紀の工業化以前より+2.0℃以内に抑えること」の重要さを社会一般の人々に分かるように説明して頂きたい。気温の日内変動が数度以上あり,年内変動も十数度以上あるため,普段の生活において+2.0℃の重要性の認識は難しい課題です。
+2.0℃の影響は,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のデータをもとにした世界自然保護基金(WWF)ジャパンの資料によると,熱波に見舞われる人口は世界の約37%,洪水リスクにさらされる人口は現在の2.7倍,2100年までの海水温度上昇1.5度,海水温度上昇36-87cm,生物種では昆虫の18%,植物の16%,脊椎動物の8%の種の生息域が半減,サンゴの生息域99%減少,夏場の海氷が消失する頻度は北極で少なくとも10年に1度,海洋の年間漁獲高は300万トン以上減少,と見積もられています。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉岡敏明(東北大学大学院環境科学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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③ 「CO2の排出量」の内訳として,どの種の産業がどのくらい排出し,また一般社会がどのくらい排出していると推定できるでしょうか。
推定するには,対象とする産業がどのくらい化石資源に依存しているかを知らなければなりません。温室効果ガスを多量に排出する者(「特定排出者」)に,自らの温室効果ガスの排出量を算定し,国に報告することなどを義務付けた「算定・報告・公表制度」が導入されました。日本全体での温室効果ガスの排出量などを,毎年,算定・公表しています。これは,温室効果ガスの排出・吸収量の「目録」(インベントリ)とも呼ばれるものです。
環境省が公表しているデータは,各排出者からのデータを積み上げた詳細なものですが,全体の概略値として,これらの排出が多いのか少ないのかの判断は,相対的なものになります。積み上げでどこまで精度をあげられるか,まさにそれが研究の対象になっています。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉岡敏明(東北大学大学院環境科学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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④ 「グラスゴーは,2045年までに英国で最初のカーボンニュートラルな都市になることを目指しています。これは,地球規模の気候変動への英国の貢献を後押しする野心的な目標です。」という新聞記事がありました。先進国の多くが2050年ぐらいまでに「カーボンニュートラル」になれば,地球温暖化の問題は解決すると考えてよいのでしょうか。
「カーボンニュートラル」とは,二酸化炭素の排出量と吸収量の差引でオフセットゼロ(正味増加量がゼロ)を意味しています。温暖化問題解決には,カーボンニュートラルの概念に,二酸化炭素の排出量と吸収量の速度のバランスも含める必要があります。排出速度が吸収速度より大きければ,二酸化炭素は増え続けることになります。化石資源をエネルギー源として使い始めた産業革命以降,森林が吸収する二酸化炭素よりも化石資源の消費や森林伐採等で二酸化炭素の排出速度が急速に大きくなっています。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉岡敏明(東北大学大学院環境科学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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⑤ 地球が太陽から1年間に照射されるエネルギーの総量は152万P Wh (152000京Wh)です。これは出力100万kWの発電所15,000基を1年間運転して得られるエネルギーに等しい量です。これに比べ,現在,人類が1年間に消費しているエネルギー総量は約131 P Wh (=22京Wh)であり,前者の約1万分の1です。太陽エネルギーの入力と宇宙への放出エネルギーは,これまでバランスが保たれてきましたが,人類によるCO2の高排出量によってそのバランスが壊れたことが問題となっています。人類の活動が地球の温暖化に影響を与えていることを,説得力をもって説明するにはどうすればよいでしょうか。
地球の大気には,二酸化炭素などの温室効果ガスと呼ばれる気体がわずかに含まれています。これらの気体は赤外線を吸収し,再び放出する性質があります。この性質のため,太陽からの光で暖められた地球の表面から地球の外に向かう赤外線の多くが,熱として大気に蓄積され,再び地球の表面に戻ってきます。この戻ってきた赤外線が,地球の表面付近の大気を暖めます(温室効果)。温室効果がない場合の地球の表面の温度は-19℃と見積もられていますが,温室効果のために現在の世界の平均気温はおよそ14℃となっています。地球の気温上昇は,過去5000年間で+7℃(100年あたり+0.14℃)であったのに対し,最近100年間での変化は+0.74℃となっています。1750年頃に始まった産業革命以降,われわれの生活は化石燃料に依存してきました。そのため,大気中の二酸化炭素濃度は増え,産業革命前の280 ppm(0.028%)から2020年には410 ppm(0.041%)を超えるまで急激に増加しました。これによって,太陽エネルギーの入力と宇宙への放出エネルギーのバランスが崩れつつあると言えます。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉岡敏明(東北大学大学院環境科学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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⑥ 2020年春,先進国の多くが, COVID-19による都市封鎖などを実施したことによって,地球のCO2が数%削減されたと言われています。COVID-19による都市封鎖あるいは経済活動の制限は,図らずも,環境対策の社会実験を大規模に実行したことになっていますが,これによって気温や水温などの上昇が少しでも抑えられたという計測結果は得られているのでしょうか。もし有意な変化が観測されていなければ,それは人類に深刻な事実を突き付けていることにならないでしょうか。
水質浄化や廃棄物の量など,都市生活と直結するものについてはCOVID-19対策との関係性が明瞭に現れている部門があります。一方,二酸化炭素排出量などの推計は様々なデータから見積もることは可能ではありますが,気温や水温など,地球規模の循環系の指標につきましては,COVID-19による都市封鎖あるいは経済活動の制限との可能性を今後もじっくり精査する必要があります。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉岡敏明(東北大学大学院環境科学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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