第7回討論会「社会課題解決の議論への経済学および農学的視座と問題提起」
【日 時】2022年9月29日(木)13:00-16:00
【開催方法】コロナ禍のためWEB形式のみ
【場 所】
【主 催】工学研究科 先端学術融合工学研究機構(令和CAST)社会インパクト推進ユニット
【座 長 団】
経済学研究科 秋田次郎教授
工学研究科 フィールドデザインセンター長 本江正茂准教授
工学研究科 久田 真教授
農学研究科 小倉振一郎教授
東北アジア研究センター 高倉浩樹教授
医工学研究科 永富良一教授
高度教養教育学生支援機構 山内保典准教授
工学研究科 社会インパクト推進ユニット長 金井 浩教授
【ね ら い】深刻化する様々な社会課題の解決の糸口さえ見えて来ない現状において,社会的共通資本としての大学の役割は一層重くなっており,大学自らがそれらの検討を重ねる必要がある。
日本は終戦後,加工貿易を基軸に奇跡的な経済成長を果した。しかしキャッチアップした1990年中期以降,経済成長率は2%前後になり顕著な成長が達成できないばかりか,新興国の発展,不得意なグローバル化・情報革命が次々と起き,原料,燃料,食料の輸入に必要な約30兆円相当の外貨獲得を,従来型技術を生かした加工貿易に依存し続けることが難しくなっている。さらに非民主主義国家陣営の身勝手で攻撃的な政策により,原料,燃料,食料の調達に関わる経済安全保障も注視されるようになっている。
日本は少資源で食料自給率も低い一方,内需拡大のため,大量生産・大量消費を奨励し,近年製品の寿命が短かくなったことや食品の無駄を見過ごしている。このように資源は無尽蔵にあるかのように買いさえすれば良いという金融至上主義の短期的な考え方は,大きな環境負荷をもたらし,また倫理的問題であると指摘されている。今世紀になっても,日本は国を挙げてイノベーション創出による経済成長をひたすら目指しているが,成長は農地の限られる農村では原理的に難しい一方,都市部ではすでに人々が満足できる程の経済的豊かさが得られている。経済的豊かさは「心豊かな社会」を創るための必要条件の一つであろうが,永遠に成長ができない以上,経済成長の数値達成を目指し常に追い立てられるよりは,「定常経済」においても,人類の生きる根幹に関わる創造性などを大切にしつつ,贅沢を排し,人々が心豊かに生きる社会のあり方も検討することが必要ではないか。この問題提起に対し,話題提供の後,討論を行う。
【申込方法】以下でご登録下さい(東北大アカウントから)。(締切:9月27日(火)17:00)
Google Form
問合せ先:工学研究科 研究推進課研究推進係 担当:千葉
E-mail:eng-ken@grp.tohoku.ac.jp
【次 第】
全体説明………社会インパクト推進ユニット ユニット長 金井 浩
討論提供………各討論者は10-20分間程度発表,残り1時間程度は自由討論
1. 「社会課題解決の議論への経済学的視点と問題提起」…経済学研究科 秋田次郎教授
「社会にインパクトある研究」が狙う「社会課題解決」に関わる「経済学」と周辺領域の「視点」からの議論枠組を整理した上で,若干の問題を提起する。効率性と衡平性の概念,財とサービスの概念,市場機構の資源配分機能とその失敗といったベーシックミニマムを巷間しばしば誤解され易い点に結び付けて説明した上で,Web3,Global Value Chain,Sustainabilityといった変貌していく環境下での今後の日本経済の立ち位置について議論する為の叩き台を提供する。
2. 「食料消費分析からみる行動変容の難しさとこれからの食農教育のあり方」…農学研究科 伊藤房雄教授
食料自給率38%の「飽食」日本では今日,「食」の安全・安心に対する需要の高まりとともに大量の食品ロスが発生している。一方,農業・農村に目を転じると,そこには農業従事者の高齢化や担い手不足,耕作放棄地の増大,等々といった農業生産の課題のみならず,農村の活力は著しく低下し,生活基盤が脆弱化している。それらは農業・農村が有する景観や貯水といった多面的機能を低下させるとともに,再生産に超長期の時間を要する農地など地域資源の管理をもままならない状況に追い込んでいる。乱暴な言い方ではあるが,これは食料の「作り手」と「繋ぎ手」「食べ手」が「顔の見えない関係」となった帰結であり,戦後の農業の近代化と農業政策および経済発展に伴う生活様式の変化に起因する。これらの問題をどのように解決していくのがよいのか,消費者主権のもとでの行動変更の難しさと食農教育のあり方を通して考えてみたい。
3.討論 ………