①人類がかつて経験のない,現在の日本で進行中の「少子化」は,今後,収束するのでしょうか。それとも収束せずに,人口は減り続くのでしょうか。収束するとしたら,どういう理由でしょうか。
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②「少子化」の今後の推移が社会に与える深刻な影響はどのようなものでしょうか。
少子化でよく言われる影響は,人口がいなくなり,地域が消滅するという指摘です(参考先行研究:日本創生協議会)。これは,地方にとって小さくない問題であるといえますが,人口が少ないと本当にすぐに絶望的なのかという問題は別途検討しなければなりません。
それよりも,今後,経済・社会的に重大な問題は,高齢社会において高齢者を支える側の人口が減少していくことが問題です。今後の少子高齢社会では,高齢者が増えながら生産年齢人口が減少していくことです(参考資料:少子化社会白書)。逆に言えば,人口が減っても,高齢者が増えても,社会が持続できる仕組みに作り替えていけば,高齢社会の諸問題を乗り越えて「心豊かな長寿社会」が実現できると考えられます。
ここで,よく,働き手が足りなくなったら海外から外国人労働者を雇い入れたり移民を増やしたりすればいいのではないかという意見もあります。しかし,これらの候補となりうる東アジアの国々では,急速な経済発展に伴って少子化が進み,日本に送り出せるような若い労働力にも限界が見えてきています。日本の少子高齢化問題は,可能な限り日本国内で解決していく方策を工夫していくことが大切と思われます。
参考文献
日本創生協議会(2014)
「人口再生産力に着目した市区町村別将来推計人口について」
内閣府(2020)「令和2年版 少子化社会白書」
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉田 浩(東北大学大学院経済学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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③この「少子化」の原因は何でしょうか。1970年代から格差が拡大し,過度な競争社会になったためでしょうか。
経済学では,人々は自分の与えられた環境や条件の中で,自分にとって費用や便益を比較して最適とされる道を選ぶとされています。(例:どのような価格でどのような機能の商品を買うか,どこに住むべきか,結婚するべきか,どのような収入の職業につくかなど。)
社会の格差が広がり,競争が激化すると低所得の人が生活の困難に直面するということが予想されますが,出生に関しては,一般に所得がある程度高い人の婚姻率や出生率が低下する傾向にあることが一般に観測されています。社会的な格差も問題ですが,この数十年間,日本が女性の大学進学率が向上して社会で活躍する局面が広がってきたのに,就業と子育てを両立できるような社会の仕組みが追い付かなかったために,子育てのハードル(コスト)が高くなってしまったことが原因といえます。過度な競争社会で各企業は国内または国際貿易の生存競争に勝つことが短期的に優先された反面,長期的には,国民の出生率という国際競争では負け組となってしまったようです。
そこで,男女ともにしっかりと育児休暇が取れたり,産休後に元のポジションに復職できたり,保育施設を充実させたりすることで,子育てのハードルを低くすることが重要と思われます。(これらは北欧など出生率が維持されている諸国で実施されています。)
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:吉田 浩(東北大学大学院経済学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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④日本の年金は今後100年大丈夫と聞きました。少子高齢社会社会の問題は騒ぎすぎではないのですか。「社会にインパクトの研究」ではどのようなことを問題にしているのですか。
政府の「年金財政検証結果」に報告書では,今後高齢者の受け取れる年金を徐々に減らすことで,年金会計を維持できるという試算になっています。これでは,年金制度は維持できても,私たちの老後の暮らしは心配なものになってしまいます。「社会にインパクトある研究」では,この年金問題を,政府の会計とは別の「豊かな長寿社会」の実現ができるかという視点から検証し,問題点を指摘しています。
年金に限らず,介護や医療保険も大きな枠組みとしては,現役世代の保険料負担で高齢世代の社会保障給付を支えるという構造になっています。ゼロ・サムゲームの下では,世代間でこの負担の押し付け合いになってしまいます。社会にインパクトのある研究では,経済学の「より少ないインプットで,より多くのアウトプットを生み出す」という考え方を応用して,プラス・サム=豊かな社会を目指します。
具体的な解決策としては,寿命が延び定年を延長して働く代わりに、子育て期にきちんと時間を確保して休業できる「子育てモラトリアム」政策導入のシミュレーション計算や、年金を削減するとしても、影響を最小限にする削減プランの試算などを行い学会等を通じて発信しています。
参考文献:
厚生労働省(2020)「2019(令和元)年財政検証結果レポート」
吉田 浩・陳 鳳明(2020)「年金収入と生活意識が高齢者の健康に及ぼす影響」高齢経済社会研究センター,『ニュースレター』Vol.44, pp.1-10.
吉田 浩(2019)「超高齢化社会における「子育てモラトリアム」政策導入効果のシミュレーション分析」第76回日本財政学会報告資料
回答:吉田 浩(東北大学大学院経済学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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⑤加齢に伴い,病気になったり,要介護になったりするのは自然の摂理で,大学の研究でこれを食い止めるのは,医学や薬学のようなものに限られるのではないでしょうか。また,たとえ高齢化によって医療費が増加しても,それは命を守るために仕方がないのではないでしょうか。
最初に,私たちの個人の医療や介護の費用は,社会保険によって他の多くの人々(特に現役勤労世代)の負担によって賄われています。また,医療費の伸び率は所得の伸び率を上回ってきたことも社会統計で明らかになってきました。医療費はもはや自分だけの健康問題ではなく,社会的な問題となっています。また,この健康保険制度が維持できるかどうかは,今後の医療費が社会的に維持可能な範囲に入っていることが,最終的に安心した長寿社会を実現する条件の一つといえるのです。
さて,病気になるかどうかは神様だけが知っている,すなわち個人ではどうしようもない部分もないわけではありません。しかし,医学の発展とともに,旧来型の感染症のような病気(結核など)よりも,生活習慣病による病気が増えてきました。すなわち,病気になるかどうかに私たちの社会での日常生活が大きくかかわっているのです。また,要介護となる原因の多くが,脳卒中のような特定の疾病よりも「歩かなくなることによる筋力の低下」などによることも知られるようになりました。
私たちは,自動車を運転するときにはガソリンの燃料がどの程度残っているか確認しながら運転し,ガス欠になる前に,燃料を補給します。しかし,体調については,日ごろから頻繁に確認している人は少ないでしょう。(健康診断を受けない人もいます。)これでは,病気になって初めて病院に行く=ガス欠になって初めてガソリンスタンドをさがすようなものです。
医療費の社会的問題を解決するためには,医療の先進的技術だけではなく,日ごろから私たちの体調を簡単かつ効果的に測定する工学的技術や,人々に自分の健康に関心を持ってもらうような日常生活での仕組みづくりを通じて実現するように,東北大学としても,分野の垣根を越えた研究上の連携をますます強めています。
回答:吉田 浩(東北大学大学院経済学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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