研究内容

研究概要

先端電力工学共同研究講座では、エネルギーシステムの低炭素化を目指し、エネルギーの発生、転換・輸送、利用に至るまでの全体を俯瞰した、エネルギーチェーンの解析・評価に関する研究を行っています。

エネルギーシステムとは

 エネルギーは産業と社会を支える重要な要素です。同時に、私たち需要家の利用に至るまで、さまざまな形態とり、また多数の変換プロセスを経る、複雑なシステムです。石炭、原油、天然ガス、ウラン、再生可能エネルギーといった一次エネルギーにはじまり、石油製品や電力等の二次エネルギーに変換されます。さらに、電力は各種家電、ヒートポンプ、EVなど、非電力はガス、ボイラ、ガソリン車などのエネルギー利用機器を通して、最終的にはエネルギーサービスとして、家庭、産業、輸送などで利用されます。

 エネルギーシステムとは、このような様々な形態のエネルギーと、多数の変換プロセスによる複雑な需給の体系を指します。そして、エネルギーシステムにおける、一次エネルギーから、エネルギーの提供に至る全体の流れを、「エネルギーチェーン」と呼びます。

エネルギーチェーンの視点から次世代エネルギーシステムの構想へ

 エネルギーシステムの目指すべき姿は、2050年カーボンニュートラル実現というテーマを前に、いま大きな岐路に立たされています。どのような一次エネルギーを利用し、どのような変換プロセスを経て、どのような機器で利用するのか。将来のエネルギーの利用の形態はまだ誰にもわかりません。

 未来の持続可能なエネルギーチェーンの形を構想するためには、全体を俯瞰するエネルギーチェーンの視点から、エネルギーシステムを定量的に評価することが必要になります。考えうる様々なエネルギー利用の形態から、最適な形態を選択するためです。エネルギーシステムの評価には、経済性、安定供給、気候変動や環境問題への対応、安全性、エネルギー安全保障など、多面的な視点が必要です。また、近年はエネルギーチェーンに再生可能エネルギー、EVや蓄電池、高性能なヒートポンプ機器など新しい技術が導入されており、その評価は一層複雑化しています。2050年カーボンニュートラル実現という大きなうねりのなかで、全体を俯瞰するエネルギーチェーンの視点から、複雑なエネルギーシステムを定量的に評価、分析する重要性がますます高まっています。

キーワード:エネルギー環境システム分析、再生可能エネルギー評価、エネルギーチェーン分析

電力業界を取り巻く環境の変化

近年、電力業界を取り巻く環境は大きく変化しています。

変動性再生可能エネルギー大量導入に伴う余剰電力の顕在化

 供給面では、温室効果ガスを排出しない、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが大量導入されています。これらの発電方式は、天候などにより出力が不確実に変動します。しかし、電力は貯蔵が難しく、需要と供給が常に一致しなければならないため、天候の良い日中に電力余剰が発生することが多くなっています。 このような課題に対応するため、蓄電池の利用や、余剰電力の水素へのエネルギー変換、需要家の消費電力制御などの、新しい技術が導入されており、これらの複雑化する技術の最適な利用が求められています。

地域別の電力需要の増減

 需要面では、産業構造の変化、都市部の人口集中や地方の人口減少、再エネ導入の地域格差などにより、地域ごとの電力需要の動態が多様化しています。一方で、すべての地域で必要なエネルギーが安定的に供給されなければなりません。このとき、各地域に分散する太陽光発電や蓄電池等、需要側のエネルギーリソースや、地域内・地域間の送電の利活用がますます重要となっています。このために必要な発電や送電、EVを含む蓄電池など需要側資源の設備を、地域の内外で最適に配置・形成し、運用することが求められています。

低炭素化・カーボンニュートラルに向けた取り組みの必要性

 以上の観点と同時に、エネルギー利用の低炭素化やカーボンニュートラルに向けた取り組みも必要です。非電力も含めたエネルギーの供給、変換、輸送、利用すべてを俯瞰するエネルギーシステム全体として、低炭素化を図る必要があります。私たちの研究室では、再エネ余剰の有効活用、地域偏在する電力需要の安定化、エネルギーチェーン全体の低炭素化のためには、ヒートポンプやEVなどを利用したエネルギーの電化が、その解となりうると考えています。

研究テーマ

本研究室では、このようなエネルギーチェーンの未来を構想し、次の研究テーマに基づき研究を行っています。

地域別の電力需要予測

 地域別の太陽光発電等の普及、人口動態の変化などからみた将来の電力需要の予測を行います。

設備の形成・運用の最適化

 需要変化や再エネ余剰を考慮した、発電、送電、需要側資源の設備の形成や運用の最適化方策について検討します。

エネルギーチェーン全体の低炭素化戦略

 ヒートポンプ、EV等を利用したエネルギーの電化により、再生可能エネルギーの有効活用、需要の維持、低炭素化の実現に向けたエネルギーチェーンの戦略について分析、構想します。

共同研究講座 設置の趣旨

本研究室(共同研究講座)では、電力自由化の流れの中で、エネルギー資源と地球規模の環境問題、地域社会との協調など、電気事業がかかえる諸問題について、東北電力(株)の支援の下で、産学連携による研究、教育を進めています。

【共同研究講座】

第4期(令和6年4月1日~)
「エネルギーチェーンの低炭素化戦略に関する研究」

第3期(令和3年4月1日~)
「電力設備の最適な運用・管理技術に関する研究」

第2期(平成30年4月1日~)
 第1期より継続

第1期(平成27年4月1日~)
「電力流通設備の最適な運用・管理技術に関する研究」
共同研究講座 第1期 終了報告

【寄付講座】

第6期(平成24年4月1日~)
「電力系統の安定性評価手法と安定化対策に関する研究」
寄付講座 第6期 終了報告

第5期(平成21年4月1日~)
「新環境下における計画・運用に関する研究」
寄付講座 第5期 終了報告

第4期(平成18年4月1日~)
「電力自由化における運用制御に関する研究」
寄付講座 第4期 終了報告

第3期(平成15年4月1日~)
「電力システム、分散型電源に関する研究」
寄付講座 第3期 終了報告

第2期(平成12年4月1日~)
「電力システムの計画・運用に関する研究」
寄付講座 第2期 終了報告

第1期(平成 9年4月1日~)
「エネルギー・環境に関する研究」

教育活動

教育

・先端電力工学セミナー
・学生実験D(学部学生)
・電気工学卒業研修(学部学生)
・電気・通信工学修士研修(大学院生)

電気・エネルギー・環境などに関する学術講演会

電力・エネルギー関係の施設見学会

コンソーシアム活動会

・東北地域における電気工学分野の大学関係者、電気事業関係者による討論、意見交換、研究発表、シンポジウムなど

電力会社との先端電力情報交換会

参考文献;国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター:「研究開発の俯瞰報告書 環境・エネルギー分野(2023年)」, 2023年8月