① 人類が放出したCO2などの温室効果ガスは,地球の温暖化にどれだけの影響を与えているのでしょうか。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書によれば,「2100年までの範囲では二酸化炭素累積排出量と予測される世界平均気温の変化量の間にほぼ比例の関係がある(図1)」ことが分かっています。
この関係から「気温上昇を1861~1880年平均と比べて2°C未満に抑える場合には,1870年以降の全ての人為起源の発生源からの二酸化炭素累積排出量を約2900 Gt CO2(二酸化炭素以外の駆動要因に応じて2550~3150 Gt CO2の幅がある)未満に留めることを要する」とされています。現在までに約1900 Gt CO2が排出されており(図1の黒楕円)、世界の年間排出量は現在33 Gt CO2程度ですので、今のまま排出し続けるとあと30年で2900 Gt CO2 に達することになります。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:土屋範芳(東北大学大学院環境科学研究科 教授),
村田 功(東北大学大学院環境科学研究科 准教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
図1:気温上昇と二酸化炭素累積排出量の関係
世界の二酸化炭素排出量がある正味の累積値に到達した時点の世界平均地上気温の上昇を、様々な証拠をもとに、その累積合計値の関数としてデータをグラフに配置した結果。プルーム(煙流)状の着色域は、過去の排出量と2100年までの期間にわたる4つの代表的濃度経路(RCP)シナリオの排出量によって駆動された、様々な階層の気候-炭素循環モデルから得られる過去と将来予測の値の広がりを示し、利用できるモデル数の減少につれて色は薄くなる。楕円は、第3作業部会で使用されたシナリオ区分の下で簡易気候モデル(気候応答の中央値)から得られた、1870~2100年の二酸化炭素累積排出量に対する2100年における人為起源の全気温上昇量を示している。気温の観点における楕円の幅は二酸化炭素以外の気候駆動力が異なるシナリオの影響によって生じたものである。黒で塗りつぶされた楕円は、2005年までに観測された排出量に対する、観測された2000~2009年の10年間の気温を、不確実性とあわせて示したものである。
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② 世界から,「日本は石炭火力が多い」と非難されていいます。石炭火力において最先端の技術革新などを導入しているという日本側の主張もありますが,海外から日本の石炭火力が強く非難されている理由の説明をお願いします。
「石炭」は安価であり,資源分布に偏りが少なく地政学的リスクが少ない利点がある一方,燃料としての必須物質(CとH)に加え,不純物(SやN,灰,その他)が比較的多く含まれています。このため燃焼方法の巧拙,不純物由来の排出物処理の巧拙により,①発電効率や②有害物質排出量が大きく変わってきます。我が国では,長年にわたり石炭燃焼の研究開発を続けた結果,①も②も世界最高水準,実際の発電所も驚くほど綺麗なクリーンコール技術を確立しています。しかし現在,国際的には,石炭燃焼はCO2排出の元凶のように言われています。なぜでしょうか。それは化石燃料の中でも「石炭」は,石油や天然ガスに比べても,発熱量あたりのCO2排出量が多いという特徴のためです[1]。石炭,石油,天然ガスでその比はおよそ10:7.5:5です。
理由は各燃料に含まれる成分の比の違い,すなわち燃焼時に熱を発生する主物質CとHの比の違いにあります。品種により大きな幅があるのですが「石炭」では,およそCが70~80%,Hが5%前後含まれます。それに対し石油では,Cが85%前後,Hが13%前後。さらに天然ガスではそれぞれ75%,25%になります。この結果,各燃料をクリーン燃焼させても,石炭は良くない,となっているようです。なお国や地域によっては,①も悪いうえ,②の処理をきちんと行わない場合もあり,目に見える大気汚染の原因になっています。こうした「悪いイメージ」が,石炭の印象を悪くしている一因でもあると考えられます。
さらにもう一つ,付記したいことがあります。日本は島国で,エネルギーを輸入する必要があります。そのためパイプライン,電線が使えず,基本的に船に頼ることになります。燃料の経済性は大切です。一方欧州では,国境を越えパイプラインや送電線が整備され,仏には原子力,北欧・北海には豊富な風力があります。CO2排出低減はもちろん正義ですが,これを唱えること,そして欧州から石炭技術を排除することは同時に,日本の得意技術を封じ,国際競争を有利に運ぶ「欧州の戦略」の一つとみることも出来るのです。
なお12月20日には,日本がCO2ゼロ排出にした場合の,国としての投資額と電力料金の試算がニュースとなりました。発電をほぼ全て再生可能エネルギーとした場合の電力料金は現在の2倍になるという衝撃的な数字です。これは日本の鉄鋼や化学産業はもはや国内では存続できなくなることを意味します。
以上のように,多くの側面から「エネルギー課題」を議論していく必要があります。
参考文献
[1] S. Vasireddy, et al."Clean liquid fuels from direct coal liquefaction: chemistry, catalysis, technological status and challenges," Energy Environ. Sci., 2011, vol. 4, pp. 311–345.
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:丸田 薫(東北大学流体科学研究所 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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