① コロナ禍の現在,世界のグローバル化が止まり,分断化が進んでいます。この状況で,レアメタルに関しての重要性,さらに現状あるいは将来予想され得る深刻な状況を具体的に解説して頂きたい。
我が国のモノづくりにおいて,従来,複数工程を一か所で行うなど,国内のみで全ての生産を行うことが効率的でしたが,近年では企業が各工程を細分化し,複数国に分かれて効率性を上げるグローバル・サプライチェーンが構築されてきました [1]。
しかし,2020年,新型コロナウイルスの感染拡大によって,このグローバル・サプライチェーンが寸断されて急速に収縮し,我が国だけでなく世界経済は今やリーマンショックを超え大恐慌時代に突入かといわれています。この状況で,各国は自国の思惑で動き,必要とするものを自国でのみで消費するため,海外市場に出回らない,場合によっては出回らせない政策が採られます。まさに,グローバル・サプライチェーンの分断が起きようとしています。
類似した現象が資源や素材の分野で起きましたのは,2010年の尖閣問題などに端を発して我が国を襲ったレアメタル危機,レアアースショックです。わが国はご存知の通り,資源に恵まれていません。特にレアメタルは,材料特性を向上させ,デバイスの高性能化に不可欠な資源のため,我が国は深刻なリスクを抱えているといえます。
このリスク解消のためには,レアメタル資源の確保やレアメタル依存度の低減技術の開発が必要であり,資源開発からリサイクルまでのマテリアルフローを考えたサプライチェーンの構築が切望されています。
これらを実現するため,レアメタル危機の際にも我が国は,まさに産官学が一体となって外交努力と技術革新によって乗り切ってきました。これが我が国のあるべき姿であり,今後も高い技術を中心に苦難を打開していくことのできる研究者・技術者を輩出する国であり続けることが希求されます。また,我が国は,地球上に存在する限りある資源を有効に利用するため,EU,米国,さらにはカナダ,オーストラリアなどの多くの国々と連携を進めており,このような国際協調の中で活躍できる人材の輩出も,わが国には期待されています。
参考文献
[1] 経済産業省2020年版ものづくり白書
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:杉本 諭(東北大学大学院工学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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② 磁石の歴史の概観とレアメタルの重要性について説明してください
人類が永久磁石を人工的に作れるようになったのは,1916年東北大の本多光太郎によって発明されたKS鋼が発端となっています。それから100年余りが経過しますが,今や永久磁石の強さは,そのKS鋼の60倍までに達しています。
この歴史の中で日本人は数多くの磁石を開発してきました。1930年,東工大の加藤与五郎,武井武によって発明されたOP磁石は,その後のフェライト磁石の礎を築き,1932年に東大の三島徳七によって発明されたMK鋼は,現在のアルニコ磁石の礎を築きました。また,本多や増本量らによって新KS鋼が発明され,1971年には東北大の金子秀夫,本間基文らによってFe-Cr-Co系磁石も発明されました。これらの鋳造合金磁石は,1970年代まで磁石の主流となっていました。
1966年米国デイトン大学のKarl J. Strnatにより希土類とCo,特にSmCo5化合物磁石の磁気特性が測定されるや否や,その優れた磁気特性に注目が集まり,希土類磁石の時代の幕が開けました(Smは希土類元素のサマリウムで原子番号62の元素)。1968年には松下電器(現パナソニック)の俵芳夫により,二相分離型Sm-Co磁石(Sm2Co17磁石)が生み出され,その後15年間にわたって,世界最高特性を誇ることとなりました。しかし,その後,1982年佐川眞人によって発明されたNd-Fe-B系磁石によって,Sm2Co17磁石も王座を奪われました。このNd-Fe-B系磁石は,それ以後40年間近く世界最強磁石として君臨しています。
参考文献
[2] Satoshi Sugimoto: "Current status and recent topics of rare-earth permanent magnets," J. Phys. D: Appl. Phys., Vol. 44, No. 6, p. 0604001 (2011).
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:杉本 諭(東北大学大学院工学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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③ 高性能磁石の条件とNd-Fe-B系磁石の特性について説明してください
永久磁石における主たる磁気特性には飽和磁気分極Js,保磁力HcJ,最大エネルギー積(BH)maxがあります。この中で (BH) max は単位体積当たりのエネルギーを表すので,この値が高いほど強力な永久磁石を意味します。しかし,(BH) maxは,J sに依存しており,飽和磁気分極が高い材料でなければ強力な磁石とはなりません。一方,保磁力HcJは,外部からの磁界などの影響によって永久磁石の磁極の向きを変えることなく,また,その強さが弱くならないことを示す特性であり,この保磁力が高くなければ永久磁石にはなりません。すなわち,強力な永久磁石には高い飽和磁気分極Js,保磁力HcJの両立が求められます。また,キュリー温度Tcが高いことも重要です。これはTc以上では熱振動の影響によって磁極の向きを一方向に揃えることができなくなり,高いJsとHcJが得られないためです。
この条件からNd-Fe-B系磁石を見てみましょう。Nd-Fe-B系磁石が強力な磁石となるのは,主相のa軸が0.8 nm,c軸が1.2 nm程度の正方晶構造をもつNd2Fe14B化合物が,飽和磁気分極Jsが1.6 T,保磁力HcJの起源となる結晶磁気異方性定数Kuおよび異方性磁界HAがそれぞれ4.4 MJm-3, 5.36 MAm-1(µ0HA= 6.7 T)と優れた磁気的性質を示すためです。特に,飽和磁気分極の1.6 Tは,元素上室温で最も高い飽和磁気分極をもつFeと比較しても,その約80%の値を示す高い値を持っていまして,このため(1)式からも高い (BH)maxが得られることになります。ただ,その異方性磁界は従来のSmCo5などに比較すると一桁低く,またキュリー温度も312℃と比較的低いため,高温になると保磁力などの磁気特性の劣化が生じてしまうという問題があります。これが,後述のレアアースショックにおけるジスプロシウム(Dy)問題につながっていきます。
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:杉本 諭(東北大学大学院工学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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④ Nd-Fe-B系磁石の有用性は何ですか。
強力磁石は,狭い空間で強力な磁界を発生させることができるため,様々な用途で使われています。
(1) Nd-Fe-B系磁石は開発されて僅か数年で当時爆発的に生産量が急増したPCに用いられました。最もよい例は,ハードデイスクのスピンドルモータとヘッドの位置決めをするボイスコイルモータです。
(2) その後,モータや発電機への用途が急増していきます。この傾向には環境問題,すなわちCO2排出量低下,電力消費の低減,省エネなどが求められるようになったことも関係しています。日本における年間の電力消費量は約1兆kWh,そのうちモータで消費される電力は全体の約60%に達していると言われています。また,モータの効率を1%向上させれば原子力発電所1基分の電力が節約できると試算されています。こうして,モータは効率の高いマグネットモータに切り替わり,高性能のNd-Fe-B系磁石が利用されるようになっていきました。
(3) 最近の冷蔵庫やエアコンなどに用いられているコンプレッサにはNd-Fe-B系磁石が使われていまして,冷蔵庫の庫内が広くなったにも関わらず熱を発することなく壁にピタッと冷蔵庫が設置できることを考えていただければ,そのコンプレッサの小型化と効率の良さを実感することができます。
(4) 環境問題から考えるとNd-Fe-B系磁石がなければ実現できなかったもののひとつに,ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)が挙げられます。発端は2000年のカルフォルニアでの排ガス規制であったが,これを契機として日本の自動車メーカが中心となってHEVやEVを開発し,その駆動モータや発電機にNd-Fe-B系磁石が用いられるようになりました。リーマンショックのあおりを受け,Nd-Fe-B系磁石の生産高も低迷していたが,この用途の出現によってNd-Fe-B系磁石の生産もV字回復しました。また,これらの電動車の生産は,現在,世界各国が重要課題としてきている環境問題対策などからも拡大してきています。
(5) 地球温暖化は,気温や水温を上昇させ海面上昇および異常気象を引きおこしますが,その主たる原因は二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスの増加にあるとされています。このため,気候変動枠組条約締約国会議などで温室効果ガスの低減がグローバルに叫ばれ推進されてきています。2014年の日本国内のCO2排出量は12.4億トン,その内,自動車由来は16.3%を占めます,また2015年における日本の自動車メーカの生産台数は約2737万台(国内生産約928万台,海外生産約1809万台),日本国内の自動車販売台数は505万台(うち乗用車は422万台)です。2030年の自動車販売台数は400万台まで低下すると予測されているものの,自動車由来の高いCO2排出量は維持される危険性があり,その低減は急務となっています。このため政府は2010年における目標で,2030年度の自動車生産台数のうち次世代自動車を50~70%,従来車を30~50%とする数字を掲げ,従来自動車を次世代自動車化(xEV化)することによって,CO2排出量を1/4にまで低減させることを提言してます。したがって,今後,従来車から次世代自動車へのシフトは益々加速されるものと推察されます [4]。
(6) 最近ではこのxEVの技術は航空機産業にも及んでいます。JAXAのホームページ [5] によれば,CO2排出量を低減するため航空機自体にもハイブリッド化が進んで電動モータが組み込まれようとしており,Nd-Fe-B系磁石の用途が航空機産業にも及んでいるといえます。
(7) 経済産業省では空飛ぶ自動車の検討に入っています。
(8) 東日本大震災の影響から代替エネルギーの大きな柱となりつつあるものに風力発電があり,この発電機にもNd-Fe-B系磁石を用いたものが検討されています。
以上のように,Nd-Fe-B系磁石はまさに低炭素社会実現に向けてのキーマテリアルと位置づけることができます。
参考文献:
[4] 一般社団法人 未踏科学技術協会「磁性材料研究会21」内 「次世代自動車開発に向けた磁性材料応用技術の開発動向」調査委員会:一般財団法人 新技術振興渡辺記念会 調査研究「次世代自動車開発に向けた磁性材料応用技術の開発動向」調査報告書(平成31年3月)
[5] JAXAのホームページ 「航空機を電動化する」(2018年11月26日)
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:杉本 諭(東北大学大学院工学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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⑤ レアアースショックの発生とその対応を説明してください
Nd-Fe-B系焼結磁石の主相のNd2Fe14B化合物は,キュリー温度が低く,保磁力の温度係数も大きいことから,HEV,EVの駆動モータなど使用環境が高温となる用途では,Nd-Fe-B三元系合金では保磁力が低下し,磁石として機能しなくなってしまうという問題がありました。
重希土類のジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を用いたDy2Fe14Bの異方性磁界がµ0HA= 15.0 T,またTb2Fe14Bの異方性磁界がµ0HA= 22.0 TとNd2Fe14Bの異方性磁界より1桁高いことから,上記の問題の対策として,これらの重希土類元素を添加して室温で高い保磁力を実現し,高温でもある程度保磁力を確保する方法が採られました。
しかし,DyやTbの添加は,Dy2Fe14BやTb2Fe14Bの飽和磁気分極が各々,J2= 0.712 T,J2= 0.664 T と,Nd2Fe14BのJs= 1.60 T の半分以下であることから(BH)maxを下げてしまうという問題があり,これらの添加はあくまでも対処療法として用いられていたにすぎません。
また,希土類鉱石中の含有量が少ないにもかかわらず,磁石メーカが重希土類元素を添加できたのは,産地国である中国が1990年代は低価格で世界に供給していたことにも関係しています。
一方,それまでの生産国であった米国では,環境問題の影響,および,中国産の希土類原料と比してのコスト高などの理由から精錬産業が低迷するようになり,結果として,希土類原料の生産地は米国から中国に移っていくとともに,中国が世界一の希土類鉱石ならびに希土類金属の生産国に登り詰めることとなります。当然,日本の希土類鉱石や希土類金属の輸入先は中国一国に集中していくことになります。
その後,中国は国内環境問題もあって2000年頃から方針を一転させ,希土類資源の輸出に対して輸出割り当て枠と輸出関税をかけるようになり,尖閣諸島問題も絡んで2010年頃に希土類原料の価格が急騰しました。特に上述のDyは中国に偏在し,中でもイオン吸着鉱といって放射性物質を含まない鉱石が中国で産出されるため,Dyは戦略物質となりHEVやEVを主とする自動車産業,HDDなどの電気・電子産業を主軸産業とする日本にとってその確保は死活問題となりました。
このようなことから重希土類への依存性が少ないNd-Fe-B系磁石の開発が切望されるようになり,国内で様々な研究と対策がなされるようになりました。換言すれば,我が国はDyの資源リスクに関しては,技術発展によって対応しようとしたといえます。
この対策に貢献したのが,磁石メーカの技術革新と文部科学省の「元素戦略」ならびに経済産業省の「希少金属代替」を謳った国家プロジェクトである。特に国家プロジェクトは,異なる省庁が連携して進めた点で画期的であります。これらの成果として,プロセスには粒界拡散法,結晶粒微細化,熱間加工磁石などがあり,それ以前に比べHEV,EV中のDyをはじめとする重希土類金属の含有量が格段に減りました。これらの発展に伴って,また,これらの発展を支えたものに,理論計算,機械学習を用いた理論,放射光の活用やマルチスケール組織観察などの組織解析技術における高度の発展があります。
一方,各国における希土類供給源の多角化も加速し,米国にて生産再開,豪州でも生産が開始されました。さらに日本政府も米欧と連携し,2012年3月に世界貿易機関(WTO)へ提訴するなど外交努力もなされ,2015年1月に輸出割り当て枠,5月に輸出関税が撤廃されています。しかし,現在のコロナ禍の状況や中国と米国が対立するような国際状況を考えますと,同じような困難な状況がやってくることは十分に想像がつきます。
参考文献:
[6] 杉本 諭: "永久磁石材料の最近の研究," まてりあ, Vol. 56, No. 3, pp.181-185 (2017).
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:杉本 諭(東北大学大学院工学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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⑥ 国として何をなすべきでしょうか。
2020年4月に内閣府から提出され閣議決定された
「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」[7] をみれば,先に述べたサプライチェーンの脆弱化からの脱却のため,その強靭化が図られると推察されます。すなわち,将来を見据えた強靱な経済構造の構築です。資源・素材に関係した具体的な面では,生産拠点の国内回帰やASEAN諸国等への生産設備の多元化支援など通じた強固なサプライチェーンの構築,一国依存度が高い部素材の代替や使用量低減,データ連携等を通じた迅速・柔軟なサプライチェーンの組替え等,サプライチェーン強靱化に資する技術開発を行うとともに,レアメタルの確保・備蓄を進めるとされています。
同様に資源エネルギー庁でも,2020年7月1日に資源・燃料部会が開催され
報告書 [8]
がまとめられています。これは同年3月に経済産業省がまとめた
新国際資源戦略 [9]
を着実に実行していくことに加えて,新型コロナウイルス感染拡大が資源の需給に与えた影響を踏まえて強化すべき対策をまとめたものとなっています。石油・天然ガス,LNGに関する対策のほか,レアメタル等の鉱物資源に対策が掲げられており,これによるとレアメタル等の鉱物資源は改めて供給の不安定さが認識されたことから,供給リスクや将来需要の見通しを立てつつ,備蓄だけにとどまらず国際協力の推進や信頼できるサプライチェーンの構築,リサイクルの推進等のツールを総合的に組み合わせ,安定供給確保に一層取り組むべきであると報告されています。
一方,NEDOにおいても本年6月24日付で,
TSC Foresight短信レポート「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」 [10]
を公表しています。これによると,コロナ禍後に起こる社会変化として,①デジタルシフト,②政治体制や国際情勢変化,③産業構造の変化,④集中型から分散型への変化,⑤人々の行動変化,⑥環境問題への意識の変化,などの6つを予想し,このような変化の中で必要とされるイノベーション像としては,(1)リモート,オンライン,分散化,自動化,省人化などのデジタルシフトと,(2)レジリエントなエネルギー社会,強靭なサプライチェーンのための低環境負荷社会への更なる転換を挙げています。前者の(1)については,データ駆動型産業分野ではAIやシミュレーション技術の利用など,モノづくりやモノの利用は行うものの,データを利活用することが重要になり,例えばロボットやAIを利用した非接触生産手法などが考えられています。また,モノありきの産業でもデジタルとアナログの融合がイノベーションのカギとなると予想されています。一方,後者の(2)については,サプライチェーンの強靭化のため,3R(リデュース,リユース,リサイクル)の技術開発の重要性と,コロナ禍後に起こる社会変化から環境にやさしいモノづくり,材料,エネルギー供給などが挙げられます。
以上の内容を考えると,ポストコロナの時代における資源・素材分野などの産業は,デジタルシフトしながら,サプライチェーンの強靭化を図り,同時に持続可能な社会の構築に貢献する産業へと変革がなされることが強く求められています。
参考文献:
[7] 内閣府:新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き,経済再生へ~(令和2年4月7日,令和2年4月20日変更)
[8] 資源エネルギー庁:第29回 総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会 開催資料(2020年7月1日)
[9] 経済産業省:新国際資源戦略(2020年3月30日)
[10] NEDO:TSC Foresight短信レポート「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」(2020年6月24日)
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:杉本 諭(東北大学大学院工学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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⑦ 大学(東北大学)はどういうことができるでしょうか。
東北大学ではこれらの社会課題を解決ための研究拠点として,2014年1月に東北大学レアメタル・グリーンイノベーション研究開発センター(RaMGI: Center of Rare Metal Green Innovation)」[11,12])を設立し,分野融合型産官学共同研究を展開しています。先のレアメタルショックが生じていた時期に,経済産業省 2010年度先端技術実証・評価設備整備費等補助金(技術の橋渡し拠点整備事業)の支援を受けて設置されたものです。
レアメタルは,上述のように,材料特性を向上させ,デバイスの高性能化による省エネルギーにも役立つ最も有効な物質ですが,わが国はその貴重な資源の確保に数々の深刻なリスクを抱えています。このリスク解消のためには,レアメタルの資源確保やレアメタルへの依存度を低減させる技術の開発が必要であり,資源開発からリサイクルまでのマテリアルフローを考えたサプライチェーンの構築が重要です。しかしながら,レアメタルショックが発生した当時,それらの技術の開発も専門分野ごとに研究が分断されており,研究者数の減少,異分野間の連携や情報交流の不足などの理由から,各分野のポテンシャルが発揮されにくい研究環境となっていたことも深刻な問題でした。
東北大学は,多くのレアメタル関連プロジェクトを主導しつつ,自治体や産業界とも連携し地域関連協議会を運営してきた実績があり,また,日本の大学では唯一,放射性物質取扱施設を多元物質科学研究所に有しています。このような実績を基盤として,レアメタル資源確保のリスクの解消,具体的には,図2に示すようにレアメタルの資源確保とレアメタルへの依存度を低減させる技術の開発,さらにはレアメタルの循環型サプライチェーン(供給網)の構築を目標として,分野融合型産官学共同研究を戦略的に展開するための中核組織として「レアメタル・グリーンイノベーション研究開発センター」は位置づけられます。サプライチェーンの構築に貢献することによって,このセンターは,関連基幹産業の発展や新規産業の創出を促し,我が国の競争力を強化し,加えて,産業におけるエネルギーの有効利用を実現して,世界におけるグリーンイノベーションを加速する可能性を秘めています。さらに,これらレアメタル資源で得られた知見を,他の資源にも適用させることによって,資源が循環する持続可能な社会の実現に貢献することになります。
具体的には,このセンターでは「レアメタル一次資源の確保」,「レアメタルの使用量低減・代替材料開発」,「レアメタル問題対応クリーンエネルギー関連デバイス・システムの開発」,「未回収レアメタルの再生」の4部門からなる戦略的研究開発を産官学共同で実施し,我が国の産業競争力の強化と国際的研究開発活動の拠点として資することを目的としています。今後,各部門がさまざまな形で国内外との連携を強めて本センターがさらに活用されていくことが期待できます。また,これらの活動を通じて,将来,世界をリードする人材の育成にも貢献することも期待されます。
参考文献:
[11] 東北大学 レアメタル・グリーンイノベーション研究開発センター
[12] 東北大学 社会にインパクトある研究, A04資源循環
図2 RaMGIにおける研究内容と体制
質問:金井 浩(東北大学大学院工学研究科教授)
回答:杉本 諭(東北大学大学院工学研究科 教授)
監修:細谷雄三(東北大学名誉教授)
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