斎藤研究室

  東北大学 大学院工学研究科   

  電気エネルギーシステム専攻 電力ネットワークシステム分野  

Saitoh Laboratory / Department of Electrical Engineering Graduate School of Engineering Tohoku University

研究活動


斎藤研究室の取り組み

 私たち斎藤研究室では、主に次の3つの課題の解決に取り組んでいます。

〇電気自動車やヒートポンプ給湯器などエネルギー貯蔵機能を持った需要側の分散エネルギー資源の電力システム安定化への利用法
〇風力発電などの出力が間欠的に変動する電源の電力システム安定化への利用法
〇電力システムの安定性向上化方策

 これらの研究課題を解決するため、私たちは次のアプローチをとっています。
 

高性能コンピュータを使用したシミュレーション
 実験することがほぼ不可能な巨大な電力システムの複雑な動きを見通しながら研究を行うため、発電機や送電線など電力システムの基本構成要素のレベルからシミュレーション用の数学モデルを作成し、MATLABなどの計算機言語を用いてプログラムを開発します。

最新の制御技術の活用
 多数の電気自動車など集団を対象とした制御の方法を考える場合、マルチエージェントシステムなど情報システムの考え方を応用したり、線形計画法などの数理最適化手法を利用します。近年注目されているAI、機械学習なども課題解決のための手段として注目しています。

 以下に、もう少し具体的に研究課題を説明していますので、関心を持たれた方は是非読んでみて下さい。


研究テーマ

 電力システムでは、発電される電力は常に消費される電力と等しくなるように調整されています。この需要と供給のバランス(需給バランス)が崩れると、その余剰分は発電機によって吸収されることとなり、同期運転の維持に悪影響を与えてしまいます。 現在導入が進められている再生可能エネルギー電源は出力が天候に依存して不確実に変動するため、今後はこれまで以上に需給バランスの維持が困難になると考えられます。本研究室では、既存の発電機の出力調整に加え、大型蓄電池を用いた充放電制御 や需要家の消費電力制御など、系統に接続される機器を最大限活用する手法の開発を行っており、将来にわたって安定な電力供給を実現するシステムの構築を目指しています。

キーワード: ディマンドレスポンス(DR), 電気自動車, 数理最適化, 強化学習



 電力システムに連系されている全ての同期発電機は、常に同じ周波数で回転しています。これらの発電機は、電力需要の変動や落雷などの変化によって同期運転が一時的に崩れた場合でも、元の同期状態に復帰する能力(同期化力)を持っています。しかしながら、再生可能エネルギー電源にはこの能力がないため、将来的に大量導入が達成されると、電力系統全体の同期化力が低下し、事故時に同期運転に復帰できなくなる可能性があります。そこで、本研究室では、将来系統における同期安定性を確保することを目的に、系統の状態からリアルタイムに安定性を推定する手法や、再生可能エネルギー電源を同期発電機のように振る舞わせることで同期化力を向上させる新しい制御手法の開発などを行っています。

キーワード: 過渡安定度, 潮流計算, グリッドフォーミングインバータ(GFM)



 発電・送配電・小売部門を一貫して運営していた地域独占の電力会社が、電力システム改革によって2020年4月から3つの独立した事業に分離されています。こうした事業形態の変化のなかでも、電力システムは常に発電と消費のバランス(需給バランス)が維持されるように運用・制御されなければなりません。現在、この需給バランスを維持する手段の一つとして、電力市場が用いられています。この電力市場にはいくつかの市場があり、小売事業者が消費者に販売する電力(供給力)を確保する市場、送配電事業者が瞬時の需給バランスを維持するための能力(調整力)を確保する市場などが存在します。 現在、我が国で運営されている電力市場の方式では、供給力や調整力が不足し得ることが懸念されています[1][2]。もし供給力や調整力が不足すると、電気料金の高騰を招き、さらには停電のリスクも高める可能性があります。 以上の背景の下、斎藤研究室では、安定性と経済性を調和させた電力システムを実現するため、電力市場による取引が電力システムの安定性に及ぼす影響を解析し、電力市場に電力システムの運用・制御能力を反映させる方法の研究をしています。

キーワード: ΔkW(デルタキロワット), 需給曲線, 電力システム改革

[1] 資源エネルギー庁, 『あるべき市場の仕組みについて』, 2022年10月
[2] あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会『「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」取りまとめ』, 2023年4月