近年、情報通信技術の中枢を担う半導体集積回路に対するニーズはますます高まり、動作周波数は既に3 GHzを越え、更に高速化、高集積化が進められています。その性能向上のために不可欠なのが微細加工技術、すなわちリソグラフィ技術です。International Technology Roadmap for Semiconductor (ITRS)によれば、2013年にはその回路線幅が32 nm、2016年には22 nmになると予想されております。
 
 現在、ArFエキシマレーザ(波長193 nm)を用いた光リソグラフィでは、液浸露光という技術を導入することにより、65 nmの線幅を加工できる縮小投影露光装置(ステッパー)が実用化され始め、更に45 nmの微細加工も実現できる見通しを得つつあります。しかし、32 nm以下の回路線幅を量産品に対して実現するには、このような透過型光リソグラフィ技術ではもはや無理があります。そこで、それを実現するために極端紫外線リソグラフィ(Extreme Ultra-Violet Lithography: EUVL)システムの開発が、アメリカ、ヨーロッパ、日本の各国において国家プロジェクトとして進められています。とりわけ日本においては、縮小投影露光装置の分野で2002年に外国企業にセールスシェアのトップを奪われ、電子立国日本の復活のためには将来技術の一つであるEUVLシステムの実用化が急務となっております。  
 
 図1に従来の透過型光リソグラフィシステムおよびEUVLシステムの概念図を示します。EUV光は短波長(〜13.5 nm)で、すべての材料で吸収されるため、現在の光リソグラフィで使用されている透過光学系は使用できず、露光システムは反射光学系となり、従来の透過型光リソグラフィで蓄積された技術ノウハウは活かせなくなります。従ってEUVLシステムの基本要素技術として、EUV光源、非球面光学系(反射光学系)、露光装置、多層膜マスク、及びレジストプロセスの5項目の技術開発が平行して進められています。
 
図1 現在および将来のリソグラフィシステム

 

 ところが、これら5つの要素技術以外でもっと重要な課題が存在することに、我々は気付きました。すなわち、光学レンズやフォトマスク基板の材料となる超低膨張ガラスの開発・評価に関する問題です。超低膨張ガラスとは、室温付近で線膨張係数 (Coefficient of Thermal Expansion: CTE)がほぼゼロとなる特殊ガラス材料です。図1を見てわかるように、115 W出力のレーザが光学系やEUVマスクに照射されるので、それら光学レンズ材料やマスク基板材料に対してはサブナノメータオーダーでの熱的安定性が要求されます。例えばマスク基板に対しては、22±3℃の温度範囲で線膨張係数(CTE)が±5 ppb/K以下という究極的な膨張特性を有する超低膨張ガラスが必要とされます。たとえ、各要素技術の開発が計画通り進んだとしても、このガラス素材が用意できなければ、EUVL全体の計画が宙に浮いてしまうかもしれません。
 
 材料開発を行う上で、その評価技術は欠かせません。線膨張係数(CTE)を計測する手段としては、レーザを利用した熱膨張計がありますが、この手法は測定サンプルを加工し、サンプルの厚さ方向の平均的CTEを計測します。一方、ごく最近の我々の研究から、直線集束ビーム超音波材料解析(LFB-UMC)システムにより、上記の熱膨張計よりも高精度にしかも非破壊的に、超低膨張ガラス素材表面の線膨張係数(CTE)を計測できることがわかってきました。従って、EUVLグレードの超低膨張ガラス素材の品質管理や選別検査に、このLFB-UMCシステムを適用できると考えています。
 
線膨張係数(CTE)の計測原理
測定例
脈理構造評価
LFB-UMCシステムによる線膨張係数(CTE)評価の優位点
最近の展望(応用物理 第76巻7号掲載)
均質TiO2-SiO2超低膨張ガラスの開発(New)
超低膨張ガラスのゼロCTE温度評価法とシステムの開発(New)