研究内容

PROJECT

体を傷つける事なく体内の臓器の状態を評価できる医用イメージング技術は、現代の医学に欠かせない存在です。中でも超音波を用いた生体イメージング技術は、リアルタイム性、安全性、可搬性の高い検査手段として、救急医療から在宅医療まで様々な医療現場で活躍しています。西條研究室は、既存の超音波イメージングの利点を活かしながら、超音波で見える生命現象の世界を広げられるよう、日々挑戦しています。

「生体内の流れの時空間変動をもっと詳細に」「数十ミクロンの毛細血管網をもっと鮮明に」「生きた細胞内部の構造変化を克明に」「血管の3次元構造を一瞬で」

医学における多様な「見たい・見せたい」の実現に向け、超音波トランスデューサ設計から、信号・画像処理、光学システム、人工知能工学まで、幅広い工学アプローチを融合し、未来の医用イメージング技術を創り上げていきます。

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超音波顕微鏡

超音波画像の空間分解能は、使用する超音波の周波数に比例して高くなります。従来医用超音波イメージングで使用されている周波数は2〜15 MHz程度ですが、当研究室では50〜300 MHzの超音波振動子で対象物の微小構造をミクロンスケールで可視化できる「超音波顕微鏡」のシステム開発や信号処理技術を開発しています。

一般的な光学顕微鏡と異なり、超音波顕微鏡では組織切片の硬さや粘弾性など機械的特性の3次元分布を染色する事なく可視化できるため、腫瘍の組織診断、動脈プラークの性状診断、皮膚水分量測定など、幅広いヘルスケア領域での活用が期待されています。

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超音波信号処理

通常、超音波画像は超音波の反射の強さをグレースケールで表し、組織の形や大きさに関する情報を表示します。パラメトリックイメージングとは超音波の反射の強さだけではなく、周波数情報や血圧の負荷による血管の微小な動きなどのパラメーターを画像化することで、組織性状診断を行う方法です。

血管内超音波法にこの手法を応用し、Integrated backscatter(IB)、組織ストレイン、Virtual Histology、2次元組織速度、Attenuation imagingなどのパラメーターにより、動脈硬化組織の自動診断が可能になりました。

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光音響イメージング

組織にナノ秒パルスのレーザーを照射することで、瞬間的に組織が熱膨張を起こし超音波を発生します。この現象を「光音響効果」といい、発生した超音波を超音波センサで捉え画像化する技術を「光音響イメージング」と呼びます。光音響効果は,対象物の吸光度に依存するため、例えば血液が良く吸収する波長のレーザー光を用いることで、組織中から血管だけをイメージングする事ができます。

当研究室では、様々な光音響イメージングシステムを独自に開発しており、毛細血管網から赤血球単体まで、様々なスケールの画像化に成功しています。また、複数のレーザー光を用いる事により血管網の酸素飽和度分布を可視化するなど、機能的なイメージングにも取り組んでいます。

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生体内の流れ可視化

血液など体内で動いているものを超音波で計測すると、ドプラー効果により速さに応じた周波数変化が発生します。この周波数変化量を画像化したものが、カラードプラー画像であり、医用超音波イメージングの強みの一つになっています。この技術を発展させ、当研究室では心臓内部の血流や、末梢の微小血管、尿の流れなど体の中の様々な「流れ」をより鮮明・詳細にイメージングする研究を行っています。

例えば、Echo-dynamography(EDG)法と呼ばれる技術を開発し、心臓内部の渦流れやジェット流を可視化したり、流れの定量解析によるより詳細な心臓運動の評価に役立てようとしています。

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医療へのAI応用

病気の早期診断が重要性を増すなか、ディープラーニングをはじめとする人工知能(AI)の診断支援技術は日々進化を続けています。当研究室では、AI技術による超音波やX線画像用診断システムの信頼性を向上させていくため、画像特徴の物理的メカニズムを考慮したAIモデルや学習手法の最適化に取り組んでいます。また、AIの予測結果に対する不確実性を可視化する技術開発により、コンピュータと人が効率的に協働できる仕組み作りも目指しています。

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医工学教育・社会貢献

東北大学大学院医工学研究科の授業の一貫として、医工学を学ぶ学生と医療従事者が互いに学び、考え、新たな医療技術の種を生み出す場作りを行っています。また、医工学やアントレプレナー育成も盛んなオランダの大学に医工学研究科の学生を派遣し、現地の研究者や医工学の学生との学術的交流を図る取り組みも行っています。

さらに、循環器内科や臨床検査技師などを中心とした超音波技術に関する情報交換会の開催や、社会人向けの医工学教育など、様々なコミュニティに対して、人的・技術的支援を行っています。